「座談会」 新制第一期の研修を終えて


「座談会」 新制第一期の研修を終えて

  新研修所の目的

司会 まず新研修所と旧研修所の制度の違いについて、所長からお願いします。

所長 三十五年の八月に第一期が開設されて以来、第八期終了の五十二年まで、旧制度の下で、五百十五めいが修業していました。研修方針は大学教養課程の基礎及び専門知識を習得させ、将来の技術革新に役立つ人材を育成することにありました。

 一方、新制度は中期計画策定の基本方針の中に、「会社全体として組織集団を活性化すること《を重要課題としてあげていますが、この考え方にそって、職場の第一線リーダーに必要な知識の付与と、それにふさわしい考え方、行動力を養うことを目的としています。

  研修生活での工夫

司会 新制第一期生として、いろんな苦労があったと思いますが、八カ月の研修生活を振り返って、印象に残っていることは?

岸本 通信レポートですね。もらったらすぐに手をつければよいのですが、ウィークディには仕事で疲れたりして、どうしても土、日に頼りがちでした。そこで、大阪では研修生同士でお互いに助け合って学習の能率をあげようと、週一、二回日時を決めて勉強会を開いたことが、勉強の効果とともに楽しい思い出として残っています。いま考えれば、この勉強会が私にとって、大変プラスになっています。

河本 家では四才になる子供がまつわりついてきて、入所時の宣誓書を本棚の上に貼っておいたところ、紙ヒコーキで飛ばされたり、とても勉強どころでありませんでしたので、休日ごとに岡山市の図書館に通って勉強しました。私自身もよく続いたと思うし、一方、家族も休日でも家庭サービスをしない父親に文句もいわずよく協力してくれました。

大塚 私の場合も、家に帰ると妻子がいて勉強にならないので、仕事を終わってからは空いている会議室を、休日にも事務所を利用するなどして、勉強するための場所を工夫しました。また、テキストがくれば、具体的な毎日の計画を立てて、実行記録を毎日書き込む形でチェックしていく方法で、自分のペースをつかむように努めました。

高橋 岸本さんもいわれましたが、レポートの提出は期日の一週間前になってあわてるというのが実情でした。どんな忙しくても、毎日三十分ずつやっておく癖にしておけばすんだのにと後悔しています。ただ、私の場合、ふとんの中でもテレビを見ながらでも本を読む癖はついていましたので、いままでの本を研修所の教科書に替えて何とか頑張ってきました。そんなことが印象に残っています。

中野 勉強面での苦労というのは、いま皆さんが話されたようなことですが、研修生活全般では前期、後期のスクーリングを通じて、同期生五十一吊といろいろな話をすることで、自分の視野を広げることができ、腹を割って話のできる友達ができたことですね。

  学習面以外の効用

司会 研修生活で学習知識以外に身についたことは?

高橋 仕事と勉強のくり返しだと、どうしても体を動かす機会が少なく、体重がふえて調子が悪いので、河川敷などでジョギングするなど、体に気をつけるようになりましたね。

高木 たぶん皆さんもそうでしょうが、文章を書くことがうまくなったと思います。研修期間中は毎日日誌をつけることになっていましたので、自分の思ったこと感じたことを少しは上手に表現できるようになったと思います。

大塚 どんな忙しくても耐えていける自信ができましたね。通信期間中は仕事と課題の両方に追いかけられ環境の中で過してきたので、これで自信がつかなければおかしいのではないでしょうか。

中野 とにかくレポートや日誌はどうしても自分だけでやらなければならないので、与えられたことに対しては、自分でどうしてもやるんだという意気込みが強くなったと思います。

 自分を支えた職場の期待感とバックアップ、ライバル意識、AIA

司会 通信教育を主体とした研修で仕事と勉強と家庭とかなりハードなスケジュールだったと思いますが、くじけそうになったとき自分を支えてくれたものは?

河本 研修所に入所するということで、会社からも職場からも期待をかけられているということをひしひしと感じましたので、それに応えるように頑張ろうという気持ちが、最後まで私を支えてくれました。

中野 「スクーリング中の仕事のことは任せろ」とか「研修を終えるまでは、君は勉強することが大事だ」とか、絶えず部署の人から激励の言葉がかけられたので、よーし頑張ろうという気持ちが自然にわいてきました。

大塚 私の場合、身近に同期入所のよき競争相手がいましたので、彼が頑張ってるのだから、自分もできないわけがないというライバル意識が働いて、それが自分を支える力となりました。

高橋 職場や家族のバックアップやライバル意識ということも確かに支えとなりましたが、前期のスクーリングの最初にAIAという体験学習をしたおかげで、私は八カ月間の研修に耐えられたように思います。AIA学習の四日間で人格、忍耐、積極性について体得して、取り組む気構えを身につけたからです。

太田 いま高橋君の話にありましたAIAは研修生に自主性を持たせるために、研修の目玉としてとりいれたものでしたが、スクーリングの期間が短く、通信教育主体の研修では大変役立つ手法でした。AIAを実践することによって、気構えや取り組みのほかに、自分のおもったことを適確に相手に伝える自信がついたようで、研修生相互のよい人間関係もできたと思います。

 AIAは後期スクーリングで導入したKJ法(問題解決法)とともに行動力、実践力養成の二本柱でありました。

司会 マンツーマン方式によるアドバイザー制度も研修の大きな推進力であったと思いますが、ご苦心なされた点は?

石井 具体的にアドバイザーの仕事というのは、各科目の理解上足の点を教えるとか、生活指導をすることなどですが、私は個々の細かい問題についてどうというよりも、精神的なアドバイスに重点をおきました。というのも、自分の仕事と研修所のレポートは、しんどくても文句をいわず、個人個人で工夫してやるべきだと思っていましたので、それには意識づけの話がよいと考えたからです。ただ、よく学ぶには心身の健康が第一ですから、バドミントやテニスなどの運動で、体作りと気分転換をしてもらうようにいつも気を配りました。

高木 本当にアドバイザーの方には学習面、精神面で非常にお世話になりました。その中でも、残業が続いて「残業で忙しくてもわずかしか書けません」と日誌に書くと「その苦労はよくわかる」と一言書いてくれたことが、非常にうれしくて忘れません。

河本 私のアドバイザーは大変忙しい人でしたが、日誌は誤字、脱字にいたるまできっちりと全部チェックしてくれていました。本当に感謝しています。

  生活アンケートが示す研修生の頑張り

所長 これまで研修生の自己奮起の様子が発言されましたが、実際に調査した生活アンケートの結果からもよく頑張っている様子がうかがえます。平均毎日残業が一時間あるのに対し、学習時間が毎日二~三時間で、仕事の疲れや生活必要時間を考えると、かなり自分で工夫しているのです。もともと自学自得を旨とした研修で、身近な例でいえば「鯛一匹を研修所で与えるつもりはない」。鯛の釣り方を勉強してもらうということで、その点、自分たちなりによくやったと評価しています。

 また、このアンケートの結果で驚いたことには「職場の人や家族にほめられましたか」という質問に対して、職場もさることながら家族からほめられたという回答が意外と多いのです。例えば「よくお酒が辛抱できますね」とか「お父さんはよくべんきょうするね」とか。私が見落としていたのはそこでしたね。会社の研修であると同時に、家族の研修でもあったのではないか。私はもともと、研修は職場と研修生と研究所の三位一体だと考えていたのですが、実は家族も含めて四位一体だったのです。

  二期生へのアドバイス

司会 九月から第二期生が入所しますが、先輩としてアドバイスしておきたいことは?

大塚 選ばれたという誇りと自覚を持って、何が何でもやり抜くんだという気概で取り組んでほしいと思います。勉強に関しては、計画を立ててほんの少しずつでも積み重ねていくことが大事でしょう。

中野 そうですね。毎日コツコツとやること、これが最善の方法ですね。また、休日を使っての体のコンディション作りを忘れずに。

高木 入所する前に、ある程度会社や業界の動きについて基礎的な知識を身につけておくと、後で役立ちます。例えばクラレタイムスを一年分ぐらい読んでおくとよいですね。それをただ読むのではなく、重要度を考えながら、アンダーラインでも引いて頭に残るように。

高橋 一期生は品質管理という科目でかなり苦労しました。それは最初の印象で苦手意識を持ってしまったからだと思います。品質管理といっても、いくつかのパターンにはめれば解ける問題ばかりですので、初めからどの科目ともむずかしいものだと思い込まないでほしいと思います。

太田 八カ月のうちに盛りだくさんなカリキュラムでは、なかなかすべての科目をまんべんなく履修することができにくいというのが、一期を終わっての私の反省点です。ですから高橋君の話に出た品質管理とやさしいようで一番覚えにくい業務知識の二科は、ある程度入所前にやってほしいということで、二期生にはすでに資料を送っています。

  職 場 で の 実 践

司会 研修を終えて、これから職場で是非とも実践したいことは?

岸本 これまで私の仕事は、過去の事例を基準にして、判断することが比較的多かった。そうした仕事もKJ法ではないが、問題はどこにあるかをもう一度見直して、前例にとらわれず、最善の方法を自分で考えていきたい。

中野 労務屋として、研修所で習った統計的知識をベースに電算機を利用して、活用できるデータは大いに活用したい。

高橋 私はこれまで、自分の得意な方面だけ一生懸命にやってきましたが、それでは職能範囲が狭くなるので、今後は自分の苦手な分野にも挑戦していきたい。

大塚 研修を通じて兆戦するという精神だけは養成できたと思うので、何にでも向っていこうという気構えでいます。

高木 研修所を卒業した先輩の中で衛生管理士をはじめ、いろいろと国家資格を持っている方がおられますので、それを見習って職務に関連する資格の取得にチヤレンジしたい。

司会 大いに頑張ってください。最後に所長から一言お願します。

所長 新制第一期の研修に当って、自学自得ということを非常に強調してきました。一期生の中で伸びた人をみていると、共通して謙虚な気持ちの持ち主で、送り出すいまになって、基本には謙虚があってその上に自学自得という精神だと強く感じています。また、アドバイザーをおいての職場ぐるみの研修でしたので、職場の励まし、指導によって研修生の成長が促進されたと思います。これから六カ月のフォーロアップ教育がありますが、実践を通じての自己啓発、相互啓発について職場のバックアップをよろしくお願いしたいと思っています。

「出席者」 黒崎昭二(所長)、太田尚真(研修所専任講師)、石井正雄(アドバイザー)、河本 豊(技術科修業)、高橋浩二(技術科修業)、大塚一男(技術科修業)、高木弘太郎(技術科修業)、岸本正敏(事務科修業)、中野栄三(事務科修業)、「司会者」岩脇労務部員

クラレタイムス 1987年 2月号 掲載

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