<マインドフルネス>で心を整える チャプリン 董遇:<読書百遍> <上機嫌>の種を蒔こう


川野泰周 <マインドフルネス>で心を整える

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令和元年十二月号 P.84

 起源は歴史ある仏教

 急速に進歩するインターネットなどにより、現代社会はまさに情報過多です。必要以上に雑多な情報が溢れ、世の中の動きも速く、私たちの脳は常にフル回転しています。コミニ―ションの希薄さなどから人間関係のストレスは増え、心身ともに疲労しやすい環境といえます。

 イライラしたり集中力が続かない、さらには心身のバランスを崩して慢性的な体調ふ良や、うつ的な精神状態に陥る方も少なくありません。

 そうした状況の中でここ数年、心を整える効果があると世界中で注目されているのがマインドフルネスです。仏教の開祖・仏陀(ぶつだ)の教えや禅の瞑想をもとに、主にアメリカで科学的に研究されて生まれた精神療法の一種です。マインドフルとは<心がいっぱい>な状態ではなく、<心を向ける><心を配る>というような意味です。仏教は2500年もの歴史をもちます。仏陀が目指した境地は、この世の苦しみである<生老病死>をあるがままに受け入れ、苦しみを手放して幸せに生きるというものでした。

 米国の最先端企業が着目

 マインドフルネスは、アメリカでは宗教色を除いた<瞑想>として、最先端のIT系の企業が社員のメンタルヘルスのケアと仕事の効率アップなどを目的に取り入れるようになりました。デスクワークでパソコン仕事が多い社員のストレスの軽減や、仕事の効率化に役立つています。 

 その流れから、日本でもおなじように大企業を中心に取り入れられつつあり、私も多くの企業や団体から研修のご依頼をいただいています。

 ビジネスパーソンが仕事の合間のわずかな時間を利用して行えることからわかるように、マインドフルネスの瞑想はいつでも、どこでも、誰でも簡単にできます。歩きながら、食べながら、お風呂に入りながら、と日常で習慣的にしていることでも、こころの向け方をちょっと意識するだけで、誰でもすぐ瞑想を始められるのです。

 マインドフルネスの定義をひと言でいうなら、<今、この瞬間に注意を向け、今、この瞬間を大切にする>ということです。そしてこのマインドフルネスを、しっかり身に付けていくための訓練の一つが瞑想です。

 瞑想というと何だか難しいとか、怪しいことのように思われがちです。でも実は誰でも簡単にできます。もちろん、あやしいものではありません。

 主婦の方が日常の生活の中に取り入れることも可能です。例えば掃除をしている時なら、きれいにすることだけを考える。ほかのことは一切考えず、今目の前の作業に意識を集中する。これも広い意味で瞑想なのです。

 我を忘れるほど何かに没頭している状態を心理学では<フロー状態>といいますが、このフロー状態の時、脳はまさに瞑想をしている時に近い状態と考えられています

 瞑想で自己肯定感を高めよう

 マインドフルネスの基本トレーニングは呼吸瞑想、つまり呼吸に意識を向ける瞑想法です。ほかのことは何も考えず、呼吸そのものに集中し、意識を向けることでマインドフル(心を向ける)な状態をつくっていきます。 

 呼吸は唯一、体から心にアプローチできるものです。自律神経による自動調節と、意図的な呼吸筋の収縮、その両面からコントロールできるのが呼吸機能だからです。イライラしたり、心がふ安定になった時こそ、浅くなっている呼吸に意識を向けて、深い呼吸にすることで心を落ち着けましょう。

 また、瞑想を経験することにより、感情と行動の間にわずかなタイムラグが生まれます。つまり、自分を客観的に見る心の余裕が持てるようになるのです。感情が乱れても、すぐに反応して怒ったり、イライラを誰かにぶっつけるのではなく、ひと呼吸置く。すると発言や行動の選択肢が増えます。

 例えば強い怒りを感じるほどのストレスがあっても、衝動的に人を傷つけるような言動には流されず、落ち着いて自分の取るべき行動に気持ちを軌道修正することができるようになります。こうした経験を積んでゆけば、その行動を選択した自分自身をも肯定できるようになるのです。これは<自分の存在を認めてあげられる>心のあり方です。

 日々、5分あるいは10分程度でも、瞑想を実践するようになると、感情に流されず冷静に物事を判断できるようになるので、ストレスへの耐性が高まっていきます。自分自身を肯定的に捉えることもできるようになり、自己肯定感も高まります。そうなれば、他者への接し方や物の取り扱いもやさしくなるでしょう。こうした気持ちは周囲に伝播していきますから、穏やかな心や相手への思いやりは、きっと家族や周囲の人々にも伝わるはずです。

 本格的なものではなくても、日常生活の中で図のような瞑想を実践することから生まれる心の余裕は、人生を<丁寧に生きる>ことにつながります。丁寧に生きることは、まさに禅の心であり、マインドフルネスの体現でもあるのです。

 自律神経は2種類あります。交感神経は仕事や運動などをしている活動モードの時や、緊張した時やストレスがある時に優位になる神経で、副交感神経はリラックスしている時や食後などに優位になる神経です。

※川野泰周(かわの・たいしゅう)プロフィール:1980年、横浜市生まれ。禅僧・精神科医。慶應義塾大学医学部医学科卒業後、慶應義塾大学病院などで精神科医として診療に従事。建長寺(鎌倉五山第一位の臨済宗・建長寺派の大本山)専門道場にて3年半の修行を行ない、現在は臨済宗建長寺派 林香寺第19代住職を務めるかたわら、マインドフルネス瞑想や禅の要素を取り入れた精神診療にあたっている。著書に『ぶち瞑想習慣』(清流出版)など。

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