『倫 風』令和元年7月号
健康長寿の強い味方 <かかと落とし運動>
慢性炎症を抑えて病気を防ぐ!
僕は以前から、高齢者の骨粗しょう症対策として<かかと落とし運動>を勧めてきました。これは骨をつくる<骨芽細胞>に刺激を与えて、骨や筋肉を元気にする運動です。このお陰で僕の骨密度は130%です。
すると、やがてこれが骨粗しょう症だけでなく、
骨に衝撃を与えると、骨から<骨ホルモン>とも呼ばれる<オステオカルシン>が分泌されます。これが膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促して、血糖値を下げる働きをするのです。また、骨に刺激を与えると、脂肪細胞から分泌される<アディポネクチン>という物質が増え、コレステロール値を下げたり、動脈硬化を防ぐこともわかりました。
実は、アルツハイマー病や血管性認知症、動脈硬化、糖尿病、がんなどの病気は、細胞の<慢性炎症>が関係しているといわれています。例えば、動脈の慢性炎症は動脈硬化をもたらし、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を起します。それが血管性認知症を引き起こすこともあります。慢性炎症がないと、たとえ認知症になりやすい遺伝子を持っていても、遺伝子のスイッチをオフのままにすることができます。
そして、細胞の慢性炎症は、血糖値と密接に関係しています。血糖値が高くなればなるほど、慢性炎症を起しやすいのです。
しかし<かかと落とし運動>をして血糖値を下げれば、動脈硬化を防げるので、心筋梗塞、脳梗塞のリスクを減らせます。認知症やがんのリスクも減っています。
※<かかと落とし運動>については図のようにします。
メタボ予防、寝たきり防止にも役立つ
<かかと落とし運動>は、メタボリック改善にも役立ちます。僕は、この運動とスクワットを始めてから約半年で、80キロの体重が71キロへと9キロも減り、ウエストも9センチ締まりました。今ではお腹はペタンコです。
また、<前脛骨筋>という筋肉を鍛えるので、転倒予防に有効です。年を取ると、歩くときにつま先が下がりがちになり、ちょっとした段差でも躓(つまず)きやすくなり、転んで大腿部を骨折したりして、寝たきりにつながってしまうことが多いのです。
しかしこの運動なら、向う脛の筋肉を強くすることができるので、転倒予防になるのです。寝たきりだって防げるというわけです。<かかと落とし運動>で健康長寿を達成して、人生を味わい尽くしましょう!
2019.06.08記す。
『倫 風』令和元年10月号
<スロー>と<スルー>でゆったり生きよう!
<三つのつながり>で人間らしく
今やスマートフォンやパソコンを持つ人で、SNS(フェイスブックやツィタ―、ラインなど)を利用しない人はほとんどいません。相手と直接、顔を会わせなくても連絡し合えて、知らない人とも交流ができ、<人間関係がひろがる>とか。でも、SNSでいざというときに役立つ<人脈>ができたり、人間同士がつながることができるのか、僕には疑問です。"うわべだけ"の空疎な人間関係になるのではと心配しています。
僕は、人が人らしく生きていくためには、<三つのつながり>が大事だと考えています。
①人と人のつながり……愛情や友情、信頼関係や助け合いの気持などは、互いに顔を見て話し合う関係からしか生まれないはずです。
②心と体のつながり……この二つは密接につながっています。心が疲れているときは、体を動かしてみると固まっていた心がほぐれてきます。反対に、体の病気になったとき、心を強く明るく保つようにすれば病気の進行を抑えてくれる可能性もあります。
③自然と人のつながり……SNSに投稿される風景がいくらきれいでも、実体験には敵いません。人間らしく生きるためには、自然の中に身を置いて、光や匂いを感じることが大事です。
この三つのつながりを大事にすれば、愛情や友情の大切さに気付きます。そして、家族や友人を含め、人間関係を見つめ直してください。例えば、少ししんどそうな友人がいたら、すぐに駆けつけて、声をかけてあげられるかどう。困難に直面する人に、自分には何ができるかを考えることが、相手だけでなく自分自身をも助け、成長させることにつながります。
SNSは便利で、相手とすぐに連絡ができる<速さ>という利点があります。しかし速いだけで内実を伴わなければ、却って弊害が生じます。そこで"あえてゆっくり<スロー>に生きる"ことを試してみよう。
<時代>や<空気>は読まなくていい
もう一つのキーワードは<スルー>です。SNSでは<即レス>(即時の返信)が求められますが、判断がつかない場合は、あえて<これに関してはスルー>という感覚を持つこと。いったんスルーしてじっくり考えれば、判断を誤ったり、思わぬ失敗をすることを防げます。
例えば常にスマホがないと落ち着けないなら、<テレビを見ない>など情報から距離を取って、読みたい本をじっくり読み込んでみる。そんな形で"目の前にごく当たり前にあるもの"をスル―してみると、スマホから解き放つ訓練になります。
<忖度>のスルーも大事。現代人は<空気を読む>ことを強いられ、<時代や空気を読むことが成功の秘訣>とされています。確かに大事な場合もありますが、反面、ストレスが溜まるし、忖度のし過ぎで墓穴を掘ることも。そこで忖度も時々スル―してみたらいかがでしょうか。
忙しいIT社会の中で自分を見失わないように、自分流のスローとスル―を組み合わせ、もっともっと、ゆっくりと生きていってください。
2019.06.08記す。
『倫 風』令和元年11月号
<共感>が奇跡を起こす!
社会は<共感>で成り立っている
多くの生き物には、他者への<共感>が備わっています。人間社会でこれが失われると、家族のつながりも、会社という組織も、スポーツのチームの連帯も空中分解してしまうでしょう。
共感の能力は、人間だけのものではありません。かつてアルゼンチンで、あるメス犬が人間の捨て子を自分の子犬と一緒に世話したという話がありました。生き物はすべて<誰かに何かをしてあげたい>という欲求を生れつき持っているものなのです。
私がいる長野県の諏訪中央病院では、三十年にわたって<地域包括ケア>を進め、病気や障がいを抱えながら地域で生活している人を支援する体制を整備してきました。
その中に脳卒中で左側完全マヒ、要介護5の妻(75歳)と、その面倒を見ているご主人(78歳)がいます。2人暮らしの<老老介護>です。
男性介護者は、全力で取り組む人が多いのですが、その分、自分1人で背負い込み過ぎ、介護に疲れ果てて最悪、無理心中に至るケースもあります。
僕たちは、このご夫婦をフォロー。男性介護者の会が泊りがけで温泉で開かれたときは、その間、病院で彼女を引き取り、ご主人に気晴らしをしてもらうようにしたり、その一方で、訪問理学療養士がこのお宅を訪問し、病院と同じようなリハビリが在宅でもできるように、ケアもしてきました。
応援の気持がみんなを幸せにする
ある時、若い男性の理学療養士が、このおばあちゃんに、こんな話をしました。
<僕たちは諏訪湖マラソンに出るので、今は仕事が終ると練習漬けなんです>
するとおばあちゃんは<応援に行ってあげたい>と言い出しました。担当のケアマネジャーがみんなに声をかけ、おばあちゃんが通うデイサービスでは<一緒に応援しよう>ということになり、立派な旗まで出来上がりました。でもおばあちゃんは、こう言いました。
<こんなばあちゃんが旗振ってもねえ。お弁当のほうが喜ぶんじゃないかな……>
しかしおばあちゃんは左手がまったく動かず、拘縮(関節が動かしにくい状態)も起していたのです。内科の主治医が拘縮をとる注射をし、作業療法士が手の訓練をすると拘縮が少し解け、おむすびが握れるようになりました。
大会の当日、彼女は朝4時起きで、マラソンに出場する彼ら6人分のお弁当を持って、いそいそと出かけました。彼らは大喜びです。でもそれ以上に彼女は、うれしいプレゼントを受け取りました。拘縮していた手足が動くようになったのです。
おばあちゃんは若い人たちのひたむきさに打たれ、応援したいと思った。その気持ちがみんなに伝わって共感の輪が広がり、回り回って"素敵な奇蹟"が自分に訪れたのです。
人間はついつい自分中心になりがち。でも、みんなが他人への共感の気持を持てば、社会全体に幸せの輪が広がっていくはずです。
2019.11.25
『倫 風』令和元年12月号
高血圧、がん、認知症などの効果 驚異の<鎌田式スクワット>
いつでもどこでも、手軽にできる
本誌7月号で<かかと落とし運動>をご紹介しました。この運動だけでも健康長寿に役立ちますが、あわせて<鎌田式スクワット>をやると効果が倊増します。僕は自宅でも旅先でも、この二つを欠かしません。3年前に比べて体重は9キロ、ウエストは9センチ縮まり、メタボもかなり改善されました。
スクワットは、かかと落とし同様に道具もいらず、時間もかからず、場所もとらないシンプルな運動。例えばテレビを見ながら、CMの合間に<ちょっとひと運動>と、心掛けるだけでいいのです。
もともと僕は、スクワットにこだわりがありました。10年ほど前、テレビの<徹子の部屋>に出演したとき、黒柳徹子さんにスクワットを勧めたら、予想外の返事が返ってきました。<やっているわよ!>
当時75歳の徹子さんがスクワット欠かさずをしているなんて……。<元気な姿を見せる人は、人知れず努力しているんだな>と感心したものです。
そういえば女優の森光子さんも、80歳過ぎてなお、<放浪記>の舞台で、"でんぐり返し"を披露。それも毎日のスクワットの賜物だったそうです。
やってみよう<スーパースクワット>
もともと、運動が血圧や血糖値を下げることは知られていましたが、最近、<運動はがんや認知症を減らす>という論文が立て続けに発表されたのです。
運動をすると、筋肉から<マイオカイン>という"若返りホルモン"が分泌されます。これが血糖値や血圧を下げるだけでなく、がんや脳卒中、認知症のリスクを下げる可能性があるのです。しかも、うつ病も減らすそうです。
※参考:大注目!筋肉に秘められた"スーパー健康パワー
マイオカインは、運動すればどこの筋肉でも作られますが、体の中で最も筋肉量が多いのは太もも。つまり太ももを鍛えれば最も効率よく分泌させられます。それに最適な運動がスクワットなのです。
一番簡単なのは<反動スクワット>です。手を前に出して、椅子に腰かける感じでゆっくり腰を下ろし、お尻を突き出します。そしてお尻が椅子に触れるギリギリの姿勢で5秒静止し、ゆっくり立ち上がります。これを1セット10回、一日3セット。
そして少し慣れてきたら<ス*パースクワット>(図参照)を。特に女性に多いのですが、高齢になると力んだり、くしゃみをした際に失禁することが多くなります。ス*パースクワットで弱った骨盤底筋お鍛えれば、尿もれ予防にもなります。ただし転倒などに気をつけて、くれぐれも無理をしないで下さい。
またインナーマッスル(体幹筋)の強化にもなるので、、ウエストやお尻が引き締まり、メタボ解消や美尻・美脚につながります。腹筋や背筋も鍛えられるので、速歩きも苦にならなくなります。
2019.11.14
『倫 風』令和二年3月号
<タン活>で、寝たきりを防ごう!
意識してタンパク質を摂ろう
<タン活>をご存知ですか? タンパク質を十分に摂る食生活のことです。タンパク質は、血管の壁や骨、筋肉を作る大切な栄養素。厚生労働省は<成人男性で1日50g、女性で40g>を1日の必要量としていますが、50歳を過ぎると年に5%ずつ筋肉量が減っていくので、<高齢者は1日60g>と推奨しています。
でも現状維持ではいけません。生き生きと暮らすには、もっと筋肉を増やす<貯筋>がふ可決。そのためには1日に体重1kgあたり、タンパク質を1.5g摂取する必要があるので、例えば体重60kgの人なら約90gという計算になります。しかし、日本の高齢者で毎日90gをしっかり摂れている人は少ないでしょう。仮に200gのステーキを奮発しても、肉の質によりますが、40~50gほどしか摂取できないからです。
ボストン大学医療センターの研究によると、1日平均100gのタンパク質を摂る人は、少ない人に比べて高血圧のリスクが40%少ないことがわかりました。タンパク質ふ足だと血管の壁がもろくなり、柔軟性を失うので高血圧になりやすいのです。
また脳卒中は、欧米人の場合、脂肪の摂取量が多く、コレステロール過多で太い血管の動脈硬化が原因になることが多いのですが、日本人の場合、タンパク質摂取量が少ないため血管の壁がもろく、細い血管が破れたり、梗塞を起すタイプが多いです。
また、タンパク質が足りないと、運動しても筋肉がやせ細っていきます。それがロコモティブ症候群(locomotive syndrome:運動器に障害を起こして歩く能力が低下する状態)やフレイル(frailty:虚弱)につながります。すると行動範囲や活動量が減り、寝たきりや認知症の危険性も増す。介護保険を適用されている人の36.5%がフレイルになっているのです。
ウーロン茶に漬けたゆで卵がいい
では必要なタンパク質をどう摂取すればよいのか。毎日ステーキを食べるのは大変ですから、魚や豆腐、なつ豆、卵、牛乳などで補う必要があります。
僕は朝、必ず野菜ジュースを飲みますが、それに牛乳を加えています。奥さんと2人分でコップ1杯。<朝、牛乳を飲むと血糖値の上昇が抑えられる>という論文もあり、日本人に必要とされる野菜の摂取量1日350gですが、これなら野菜とタンパク質が同時に摂れるので"一挙両得"です。
またプロティン入りの牛乳やヨーグルト、ゆで卵を常食にするのも効果的です。僕は、少し濃い目のウーロン茶に漬けたゆで卵を常食にしています。ウーロン茶の色がつくと味が濃いように錯覚するので、塩をかけなくても美味しいです。<卵の食べ過ぎはコレステロールが心配>という人もいますが、1日2~3個程度なら、コレステロール量は上がりません。
そしてこれを、運動後30分以内の<ゴールデンタイム>に食べるのをおススメします。貯筋には、前に紹介した<かかと落とし運動>や<スクワット>などの運動が欠かせませんが、タンパク質を筋肉に変えるには、ゴールデンタイムでの摂取が効果的なのです。
かかと落とし運動とスクワット、そしてタン活で、フレイル、寝たきり、認知症を防ぎましょう!
2020.02.13
|