第三期研修生に所長訓示昭和六十年九月五日(木)


 研修生はそうでないものとどこが違うかを話したいと思う。

 道元禅師がおりにふれて話されたことを弟子が書き残した書物に『正法眼蔵随聞記』があります。

 その中の一節に

 「示して云く、海中に竜門と云(いふ)処ありて、洪波しきりにたつなり。諸の魚ども彼の処を過(よぎり)ぬれば、必ず竜となり。故に竜門と云(いふ)なり。いま思ふ、彼の処洪波も他所(よそ)にことならず。水も同(おなじ)くしわはゆき水なり。然れども定まれる不思議にて、魚ども彼の処を渡れば必ず竜と成る。魚の鱗もあらたまず、身も同じ身ながら、たちまちに竜となりなり。衲子(のつす:禅僧のこと:黒崎記)の儀式も亦かくのごとし。処も他所(よそ)にことなねども叢林(そうりん)に入りぬれば必ずしも仏(ぶつ)と成り祖(そ)となるなり。食(じき)も人と同(おなじ)く喫(きつ)し、衣(え)も同(おなじ)く服し、飢を除き寒を禦(ふせ)ぐことも斉(ひと)しけれども、只髪を剃り袈裟(けさ)を着(ぢゃく)して食(じき)を斉食(さいしょく)にすれば忽ちに衲子(のつす)と成るなり。成仏作祖(じやぶつさそ)、遠く求むべきにあらず。只叢林(そうりん)に入(いる)る入(いら)ざるとは、彼の竜門を過(よぎ)ると過(よぎら)らざるとの別の如し。」 (岩波文庫)P.139

 次に研修制度について説明する。

 教育方法 

Ⅰ.1 通信教育

 手作りのカリキュラムに従って勉強する。

 基本的には自学自得して息む無しの心構えで勉強してもらいます。自分の勉強であり(他から押しつけられたものと考えている者はいないと信じています。)考える力を養成して問題解決能力をたかめるように意を用いて欲しいと思います。そして積極的なものの考え方、態度を身につけてください。

 先輩や後輩の態度の観察、本を読む習慣、日記を継続的に書く(これは義務つける。研修期間中、せっかく書きつづけながら修業するとやめる人がいる。これは非常にもったいない。)ことにより、観察力、集中力、記憶力の養成になります。自分の行動に効果があらわれるように努力して欲しい。

 哲学者梅原猛は仏教の勉強に当って自分を追いこめています。NHKTVで仏教の話をすることを引きうけて視聴者にわかる仏教の話を勉強したとのことです。

 次に継続することは力になります。自分はともかくも2年間、日記を書き続けることができたのである。従って、ともかく計画したことは続けることができると自信がつきます。続けることによる効果は『論語』に「性相近く、習相遠し」という句があります。人間の生れつきは似たものです。習慣的に勉強すれば段々と力に差がついてくるということです。

 謙虚にして自学自得無息については入所式ではなしたので詳しくは申しませんが、自分の心のノップに手をかけて自分で鍵をあけて正面から研修に取組み研修の体験に意味を持たせるように努力すること。

Ⅰ.2 アドバイザー制度

 研修効果を高める方法として、三期生は前期は科目別アドバイザーを、後期は原則としてマン・ツ・マンによるアドバイザーを工場長より委嘱してもらいました。自分の前期のアドバイザーはどなたか知っていますでしょうか。

 アドバイザーの方、全員にその役割心得をお願いし研修生のカリキュラムを説明し、前期は教科書を配布しています。

 基本的には自学自得でありますから、自分がまずやってみて理解できるものと、そうでないものとよく整理してアドバイザーに接触してください。全面的に依頼するという態度ではなくて何を教えていただくのか考えたうえで教えていただくこと。いうまでもないことだが、アドバイザーに対しては礼儀を忘れないことです。

Ⅱ カリキュラム

 ここで三期生の人員の内容について説明する。

       一期   二期   三期
 年齢    28歳以上 同左   同左  
 妻帯  85%   72%   56% 
 勤続    12年以上 12年以上 2年以上

 三期生は基礎知識、管理技術、人間形成の三本建てで考えている。前期は基礎知識、後期は管理技術、人間形成を基本にしている。

Ⅲ スクーリング

 前期19日間、中期約15日間、後期約25日間計約60日間と考えている。

 この期間はみなさんにとっては自分をよくみつめる期間であり、9月3日のあいさつ、9月5日の入所式のときにふれたように、「ここ」、「われ」、「心の扉を開くこと」、「話しのききかた」、「自学自得無息」、「自らに勝つ者は強し」の事柄を体得して欲しいと思います。

 このために前期スクーリングの内容を見てください。

 こころがまえ方法 訓示・講話    3

 基本的態度      AIA    16
            礼儀と作法  2
 自覚を持ってもらう    規律訓練   1
                 計22(40%)
 事例研究              5(9%)
   基礎学科             21(38%)
 面接・スポーツ・感想        7(13%)
 以上の時間中に1分間スピーチ(発表能力)6回/各人を行う。

 期間中、相互啓発してもらいたい。クラレ社員、関係会社の社員であり、勤務地がちがいあり、年齢もちがいます、また経験も違います。しかし24時間の共同生活をします。授業時間、寮での自習・談話などを通して相互啓発してください。団体生活を円滑に過ごすためのマナー等についても考えるチャンスであろうと思います。

 ここで一つ言っておきたいことは、スクーリング中にしかできないことは何かをよく考えて行動してください。例えば他の工場の人とはこの期間しか逢うことはできません。友好を深める機会です。「いま、ここで」何をしておかなければならないかを考えて行動することです。

Ⅳ 科の混合教育

 新研究所では技術・事務が同時に研修することになっています。58年6月から生販技一体の組織になっています。お互いが協力して効率化をはかる組織になっています。これに呼応して科の混合教育になっています。技術は管理技術の勉強は生産、設備(営繕を含む)、電気の専門科目にわかれて勉強してもらいます。事務科は労務・販売・財務経理・資材と全部の勉強してもらいます。スクーリング中、技術、事務は相互に認識を深める努力をして欲しい。

Ⅴ 教える人

 社内の専任、兼任の講師が担当しています。そのほかに、社内の人、適宜社外の専門家のお話しを聞く機会をもうけるようにしています。またみなさんの役にたつと思われる図書も集めています。これまでは図書室にありましたが、今回から通路にだしましてみなさんの目にふれるところに置きましたからできるだけ目を通してこれからの読書或いは勉強の参考にしてください。

 講師は社内の教育についての要求はよく知っておられます。また社内教育の制限条件も知らされておりますので遠慮なく相談してください。

Ⅵ 教育のフォロアップ教育

 教育は速効的なもの、長い熟成期間を要する遅効的なものがあります。速効的なものはできるかぎり、職場で応用してこそみなさんが勉強した効果があったと判断されます。

 研修を修業されても6ヵ月間、職場とよく連絡して研修の効果を高め実践能力をつけるためフォロアップ教育をいたします。

 以上で終わります。

※当時の記録を掲載。2020.06.24


追記

 研修所第一期生:入所昭和五十八年十二月~終業昭和五十九年七月
 研修所第二期生:入所昭和五十九年九月~終業昭和六十年六月
 研修所第三期生:入所昭和六十年九月~終業昭和六十二年二月二十七日

 第三期生終業式2.27.行う。

 クラレ退社の翌日の四月一日から岡山理大付属高校に勤務しました……。

平成二十九年二月二十五日

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