橋本 宏
『英語で読む 英知とユーモア』

改 訂 版 2022.12.09 改訂


『英語で読む 英知とユーモア』 (丸善ライブラリ)平成11年11月20日 発行

 中西秀男著/橋本 宏/小林堅太郎/丹沢栄一編


☆1 ヒト・人間・人類☆ P.1~29
〔1〕
 If you have charm, you don't need to have anything else; and if you don't have it, it doesn't matter what have.
                                James M. Barrie

 《訳》  もしも魅力があれば、ほかに何もなくても構わないが、もしも魅力がなければ、ほかに何があっても問題にならない。
                                ジェイムズ・M・バリー

 魅力こそは絶対に必要なもの、とハッキリ明言している。魅力がなければ何があってもだめだ。という。なるほどそうか、と思ったら自分でも魅力をつけようと努力すべきだが、努力一つで誰にでもできることではない。しかし、まずは努力してみよう。リンカーン大統領の肖像は威厳に満ちているが、若いときは有名な醜男(ぶおとこ)であった。

 バリー(1860~1937)は、わが国ではピーター・パン(Peter Pan,1904)の作者として知られる。大人も子供もピ-ター(Peter Pan,1904) とウェンディ (Wendy)の織り成す[おとぎの世界] (Never-Never Land)に郷愁を覚えるに違いない。([132][168]参照)


〔2〕
I have never seen an ass who talked like a human being, but I have met many human being who talked like asses.
                                Heinrich Heine

 《訳》  人間のような口をきく馬鹿(ロバ)は一度も見たことがないが、馬鹿(ロバのような口をきく人間には大ぜい会ったことがある。
                                ハイリッヒ・ハイネ

 ドイツの叙情詩人ハインリッヒ・ハイネ(1797~1856)は、明治の中ごろ、甘美な恋愛詩が紹介されて日本でも人気が高かったが、彼はドイツよりもフランスに親近感を持つなど、硬派的な一面があって、この引用句にもそうした性格が見える。彼の最後の病床で友達が、神様は君の犯した罪もお許し下さるだろう、と言ったところ、God will forgive me; that's his business.(そうだろうな、許すのが商売だから)と答えたという話もある。彼の抒情詩にはシューベルト(Schubert)やシューマン(Schumann)など、当時の大作曲家が作曲したものが幾篇もある。([146]、『雑草園雑筆』p.177参照)

2021.10.26


〔3〕
Man, biologically considered, is the most formidable of all the beasts of prey, and, indeed, the only one that preys systematically on its own species.
                                William James

 《訳》  人間は、生物学的に考えれば、あらゆる猛獣のうち最も恐るべきもので、事実、同じ種族に対し組織的に害を加える唯一の動物である。
                                ウィリアム・ジェイムズ

 人間は集団をなして戦争や内乱を起こし、同じ人間仲間を殺し滅ぼす。生物学によれば、どんな猛獣も決してこんなことはしない。最も恐るべき動物は人間だ。次の文例に見られるように、ローレンスも同じことを言っているが、そちらはむしろ感情的な発言。これは冷静な科学的観察だ。

 ウィリアム・ジェイムズ(1842~1910)はアメリカの哲学者、小説家ヘンリー・ジェイムズ(1843~1916)の兄である。


〔4〕
Men! The only animal in the world to fear!
                                D. H. Lawrence

 《訳》  人間か! この世界唯一の恐るべき動物だ!
                                D.H. ローレンス

 イギリスの小説家・詩人ローレンス(1885~1930)の詩集『鳥・獣・花』(Birds, and Flowers,1920~23)に収録された詩 'Mountain Lion'「クーガ」の一節。

 一月のこと、われわれはアメリカのニュー・メキシコ州の人の気配のない雪に覆われた峡谷に分け入った。思いがけずに何やら動く人影を目撃する。Men!/Two men!/に続くのが上の引用個所。双方に緊張が走る。

 彼らはたじろぐ/われわれはひるむ/彼らは銃を一丁持っている/われわれは丸腰だ/彼らは接近してくる/われわれは近づく/

 相手方は銃を持っているし、あたりには全く人がいそうもない場所だから、何をされるかわからなくて、警戒したが、幸い何事もなく別れることができた。相手方はクーガを一頭罠でしとめて持ち帰るところであった(クーガはアメリカ・ライオンとも呼ばれ、アメリカ西部の山間部に生息する、ピューマや豹と同じ猫科の猛獣)。

 ところで、ローレンスは問題になった小説『チャタレー夫人の恋人』(Lady Chatterley's Lover,1928)で無闇に有名になったが、この一作でどれほど作家としての名声にキズがついたかわからない、と見る人もある。(『雑草園稿存』p.100-108参照)

2021.11.18


〔5〕
 When a true genius appears in the world you may know him by this sign, that the dunces are all in confederacy against him.
                                Jonathan Swift

 《訳》  真の天才の出現はうすのろ達がこぞってその人物に反旗を翻すという兆候で判断されるだろう。
                                ジョナサン・スイフト

 残念ながら何時の世にも言えることだが、人間は異質のものに接すると防衛機制が働き、排除に取り掛かる。無知の知を説いたソクラテス、殉教者としてのイエス・キリスト、宗教裁判にかけられたガリレオなど天才が闇に葬られた例は枚挙にいとまがない。スイフト(1667~1745)はイギリスの諷刺作家。彼の代表作『ガリバー旅行記』(Galliver's Travels, 1726)は当時の世相を諷刺した作品だが、そこまで槍玉に上げられたことは現代人もおちおち笑ってはいられないものばかりである。

2021.11.18


〔6〕
 If you wish to avoid seeing a fool, you must first break your mirror.
                                François Rabelais

 《訳》  ばかの顔を見たくなかったら、まず自分の鏡をこわせ。
                                フランソワ・ラブレー

 つまり、自分こそばか者の手近な見本だぞ。それを忘れるな――という手ごわい教訓である。

 ラブレー(1494?~1553?)はフランスの人文学者、諷刺文学者、医師で、ユーモラスな大作『ガルガンチュア物語』(Gargantua, 1534)その他で有名。ルネッサンスを体現したような大人物であったた。この言葉は、人間はまず自己の愚かさの自覚からスタートするべし、という教えである。

 Let down the curtain: the farce is done.(幕を下ろせ。茶番はおしまいだ)が彼の臨終の言葉と伝えられている。要するに人生は茶番にすぎない、と評価を下して引き上げて行くとは大人物らしく立派だが、生きていくにはいろいろ面倒もあったろう。どうせ茶番と知りながら、死ぬまでその面倒を我慢したとすると、彼の生涯はやはり悲劇ではなかったか。

2021.11.17


〔7〕
 Man has lost the capacity foresee and to forestall. He will end by destroying the earth.
                                Albert Schweitzer

 《訳》  人類は今や予見し予防する能力を失ってしまった。結局は地球を破壊することになるだろう。
                                アルベルト・シュヴァイツアー

 人類による環境破壊の現状を嘆じた言葉。ノーベル平和賞(1952年)を受けたシュヴァイツアー(1875~1965)はアルザスに生まれて晩年アフリカに住んだが、神学者、オルガン演奏家、医師であった。

2008.6.19


〔8〕
 An optimist is a person who says the bottle is half full when it is half empty.
                                Anonymous

 《訳》  楽観主義者とは瓶が半分からになるとまだ半分あると言う人のことだ。
                                無名士

 同じ事実が見方一つで「半ば空だ」とも「半分入っている」ともいえる。どちらを取るかはその人の人生観で決まるわけだ。楽観主義者の反対は pessimist (悲観主義者)、それぞれ optimism(楽観主義)と pessimism(悲観主義)の派生語である。上の例文になれば A pessimist is a person who says the bottle is half empty when it is half full. となる。

 アメリカのユーモア作家、エヴァン・イーサー(Evan Esar)も同じことを次のように紹介する。The optimist says his glass is half full while the pessimist says his [=his glass] is half empty.(Easar's Comic Dictionary,1943)

 また、アメリカのユーモア作家ドン・マーキス(Don Marquis,1878~1937)の An optimist is a guy who has never had much experience.(たいした経験のない奴が楽観主義者さ)もうなづけよう。

2021.11.09


〔9〕
 A pessimist is a man who thinks everyone is as nasty as himself and hates them for it.
                              George B. Shaw

 《訳》  悲観観主義者とは、人は誰でも自分と同じくたちの悪い奴と思って、そのために誰のことでも憎む人だ。
ジョージ・B・ショー

 同じ悲観主義者の定義にしてもショーの毒舌ぶりが遺憾無く発揮されている。悪人が自分を基準に人を見るから、他人が悪人に見えると言うのだ。ショー(1856~1950)はアイルランド生まれのイギリスのノーベル賞劇作家、『武器と人間』(Arms and the Man, 1894),『ピグマリオン』(Pygmalion, 1913),『聖女ジヨーン』(Saint Joan,1923)など因習を打破する社会批判を書いた。([67][129] 参照)                               

2021.11.11


〔10〕

 To be, or not to be, that is the question.
                                William Shakespeare

 《訳》  あるべきか、あるべからざるか、それが問題だ。
                                ウィリアム・シェイクスピア

 シェイクスピア(1564~1616)の四大悲劇の一つ「ハムレット」(Hamlet,1601)の中の独白の一部。昔は「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」など、議論百出したが、今では「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」(小田島雄志訳)がどうやら定着しているようだ。

 父の復讐を誓いながらも悶々とした日々を送るハムレットの苦渋に満ちた心境を表す言葉である。人間のタイプを二つに大別して、優柔不断の人物をハムレット型、猪突猛進の人物をドン・キホーテ型としてしばしば言われる。しかし、人間は複雑怪奇な存在だ。何しろ同一人物でも状況次第ではハムレット型にも、ドン・キホーテ型にもなるから一筋縄ではいかないだろう。

2008.6.20


〔11〕

 I never found the companion that was so companionable as solitude.
                                Henry D. Thoreau

 《訳》  孤独ほど付き合いやすい仲間は見つかったためしがない。
                                ヘンリー・D・ソロー

 ソロー(1817~62)はアメリカの思想家・随筆家。ウーォルデンの湖のほとりで隠遁者としての生活を綴った『森の生活』(Walden, or Life in the Wood. 1854)で知られる。ソローにとって大自然に育まれた孤独な生活は、人間の付き合いなどより格段に優るものであった。ソローは日記にこう記す。It would give me such joy to know that a friend had come to see me, and yet that pleasure I seldom if ever experience.(友人が訪ねてくれたことがわかったら、それはそれなりに大きな喜びを与えてくれるだろう。だが、友人との楽しみを味わうことは、たとえあるにしても、まずめったにないことだ)。([135]参照)

2021.11.29


〔12〕

 No mind is thoroughly well organized that is deficient in a sense of humour.
                                Samuel T. Coleridge

 《訳》  ユーモアのセンスに欠けるものは完全に整備された精神の持ち主ではない。
                                サミュエル・T・コールㇼ

 コールㇼッジー(1772~1834)はイギリスのロマン派運動で指導的な役割を演じた詩人。ワーズワーすと共に『抒情民謡集』(Lyrical Ballads, 1798)を出版した。([16][107]参照)

2021.11.29


〔13〕

 We need two kinds of acquaintances, one to complain to, while we boast to the others.
                                Logan P. Smith

 《訳》  人には知り合いが二種類入用だ。愚痴をこぼす相手と自慢話をする相手だ。
                                ローガン・P・スミス

 愚痴をこぼせる相手となるとかなり親友に近いが、優越感に浸れる相手とは、結局馬鹿に出来る相手ということになるだろう。人間心理をうまく言い当てたものだ。

 ローガン・スミス(1865~1946)はかなり風変わりな人であったらしい。その長い生涯のうちに、詩、小説、随筆、評論、伝記、自伝など、実に多方面な著作を残したが、わが国では主に The English Language(1912)や Word and Idiom の著者として知られている。二冊とも大きな本ではないが、英語・英文学の研究に重要な意義を持つばかりでなくそれ自身バランスの取れた美しい文体で書かれてもいる。(『英語プロムナード』P.140,[160]参照)

2021.11.18


〔14〕

 If fifty million people say a foolish thing, it is still a foolish thing
                                Anatole France

 《訳》  バカげたことを言う人が5000万人いたにしても、やはりそれはバカげたことに変わりはない。
                                アナトール・フランス

 アナトール・フランス(1844~1924)は博識の名文家として知られる。知的懐疑主義者として、人間に対する軽蔑が作品の特色となり、独特の皮肉が魅力となっている。1921年にノーベル文学賞を受賞している。

 数に物を言わせて「無理が通れば道理が引っ込む」、そんな世の中であってはなるまい。アナトール・フランスの真意は推測の域を出ないが、真理探究者は時代に受け入れられることなく、a stranger in a strange land(異境の地の異邦人)であり続けなければならないのであろう。([56][57][70][183]参照)

2021.11.20


〔15〕

 You can fool some of the people all of the time, and all of the people some of the time, but you can not fool of the people all the time.
                                Abraham Lincoln

 《訳》  何人かを四六時中欺くことはできる。また、全ての人を暫く欺くこともできよう。だが、万人をのべつ膜なしに欺くことは絶対にできるものではない。
                                アブラハム・リンカーン

 昔から程度の差こそあれ欺まんに限界のあることを述べた識者は多いが、アメリカの理想を実現するために誠心誠意尽した大政治家(statesman)リンカーン(18069~65)ならではの発言。党利党略に走り、私利私欲を計る現代の政治家(や)(policeman)の二枚舌に慣らされている市民には実に清新な響きを持つ言葉だ。

 リンカーンの発言から思い出されるのは、アンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce,1842-1914?)の Diplomacy; The patriotic art of lying for one's country(外交:自国のために嘘をつく愛国的行為)だ。この論法でいけば、神様は外交官が職業上嘘をつくのはお許しになるかもしれない。([55][97][98][99][141][152]参照)

2021.11.21


〔16〕

 There are three classes of elderly women: first, that dear old soul; second, that old woman; third, that old witch.
                                Samuel T. Coleridge

 《訳》  年取った女性に三つの種類がある。第一は、あのやさしいおばあちゃん。第二は、あのばあちゃん。第三は、あの鬼ばばあ。
                                サミュエル・T・コールㇼッジ

 同じ物を指すのに、それに対する読者の好意や悪意など、またその程度により、われわれは自然と別な言葉を使うことがある。その事実を「種類が三つある」とユーモラスに表現して、実例を挙げたもの、コールㇼッジは詩人で、言葉に対する感覚の鋭い人であった。

 コールㇼッジが死んでから100年もたって、このアイデアを使った一種のユーモアが発生した。同じことを指すのに、それが自分のこと(第一人称)であるか、相手(第二人称)であるか、彼または彼女(第三人称)であるかにより、なるほどこれはぴったりだと思える表現を並べて見せるユーモアでる。

I am firm-willed, you are stubborn, he is a pig-headed ass.

 「僕は意志が強固だ、君は頑固、あいつは頑迷固陋なバカ野郎だ」

 つまり、同じ内容を言うのに、自分については褒め言葉を使い、第三人称については猛烈な罵りの言葉を使い、第二人称にはその中間に当たる言葉を選んで、なるべく強烈に対比させてユーモアを生む方法である。第二次世界大戦後の1948年、イギリスの哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell,(1872~1970)がラジオ放送に出て、これに「不規則動詞のユーモラスな変化」となを付けて紹介した。それがキッカケで流行を巻き起こした。

 I am fastidious; you are fussy; he is an old man.

「僕は潔癖だ。君は口やかましい。あいつはまるでガミガミだ」

 I am slender; you are emaciated; she is a walking skeleton.「僕はすらりとしている。君は瘠せっぽちだ、あいつは骸骨が歩いているみたいだ」

 新型のユーモアとして定着した形だが、その火付け役が哲学者ラッセルであったとは、いかにもイギリス的な現象であった。([12][107]、『英語プロムナード』p.152-155)

2021.11.30


〔17〕

 The two things that a healthy person hates most between heaven and hell are a woman who is not dignified and a man who is.
                                G. K. Chesterton

 《訳》  この世で健全な人がもっとも憎むものは凛としたところのない女性と凛善と構えて男性だ。。
                                G K・チェスタートン

 [凛としたところのない]女性は decency [品格]に欠ける女性、要するに品のない女性のことか。[凛然と構えている]男性は、さしずめ[お高くとまっている]男性と言ったところだろう。 

 チェスタートン(1874~10936)はイギリスのジャーナリスト、作家、ローマカトリック教徒であり、保守的な政見の持ち主として知られる。エッセイ集、ブラウン神父を主人公とする探偵小説シリーズ、批評や論争術に関する著作がある。([71][75]参照)

2021.11.29


〔18〕

 To find out a girl's faults, praise her to her girl friends.
                                Benjamin Franklin

 《訳》  女性の欠点を見つけるためには、その女友達にその女のことを褒めてみたまえ。
                                ベンジャミン・フランクリン

 [付き合って日が浅いけど、ある娘に求愛するところだが、その娘の短所と、その娘が持ちあわせていると思われる長所を、どうやって確かめられるだろうか?]、という質問に、フランクリンはさりげなく答えたという。女性同士の対抗意識を煽ることで、女性の本性を暴こうとする慧眼。

 フランクリン(1706~90)はアメリカの政治家、外交官、科学者、印刷屋と多方面で活躍した。独立宣言の起草者の一人でもあった。([61][159]参照)

2021.11.10


〔19〕

 Women are timid, and 'tis well they are――else there would be no dealing with them.
                                Laurence Sterne

 《訳》  女は臆病なものだ。臆病でよかったよ――さもなかったらとても相手にできはしない。
                                ローレンス・スターン

 スターン(1713~68)はイギリスの作家。傑作『トㇼストラム・シャンディ』(Tristram Shandy,1759~67)は、[意識の流れ]小説の先鞭をつけた。

※参考:『トリストラム・シャンディ』は、イギリスの小説家ローレンス・スターンが書いた未完の小説。全9巻からなる小説で、1759年の末から1767年にかけ、2巻ずつ5回に分けて出版された。原題は『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』である。

2021.12.08


〔20〕

 Since all the maids are good and lovable, from whence come the evil wives ?
                                Charles Lamb

 《訳》  娘たちがみな善良で愛らしいとすると、たちの悪い女房どもは一体どこからきたんだろう?
                                チャールズ・ラム

 チャールズ・ラム(1775~1834)はイギリスの批評家・随筆家。『エリア随筆』(Essays of Elia,1823~33)は不朽の名作。姉 Mary Lamb(1764~1847)と悲しみ合い、子供向けの『シェクスピア物語』(Tales from Shakespeare,1874)を書いた。([29]参照)

2021.11.16


〔21〕

 Only a man who has loved a woman of genius can appreciate what happiness there is loving a fool.
                                Charles Maurice de Talleyrand

 《訳》  天才の女を愛したことのある男でなければ、ばか(な女)を愛するのがどんなに幸福か理解できない。
                                シャルル・モーリス・ド・タレーラン

 タレーラン(1754~1838)はフランスの政治家、外交官。政変を乗りきる手腕と策略を備えていたことで有名(早い話、変わり身が速かった)、フランス革命、ナポレオン統治、ブルボン王朝復興、ルイ・フィリップ治世のそれぞれの時期に様々な公職に就いた。

2021.12.08


〔22〕

 The way to fight a woman is with your hat-grab it and run.
                                John Barrymore

 《訳》  女と喧嘩するときは帽子を使ってやれ――ぱっと帽子をつかんで逃げ出すのだ。
                                ジョン・バリモア

 バリモア(1882~1942)はアメリカの俳優で、シェクスピア劇俳優としてなを馳せた。

 そういえば、モーム(Somerset Maugham, 1874-1965)の短編集『コスモポリタン』(cosmopolitans, 1936)中の一篇[逃亡]('The Escape')にも、女性の求愛を退けるために[逃げるが勝ち]を巧妙に演出した男の話がある。

 なお、ナポレオンの次のセリフにも相通じる。The only victory over love is flight.(恋愛に勝つ方法はただ一つ――逃げることだ)([169]参照)

2021.12.05


〔23〕

 How beautifully everything is arranged by nature; as soon as a child enters the world, it finds a mother ready to take care of it.
                                Jules Michelet

 《訳》  自然の力で何もかも実にうまくできているもんだな。子供が生まれると、たちまち母親が待ち構えていてその世話をする。
                                ジュール・ミシュレ―

 ミシュレ―(1798~1874)はフランスの歴史家、広く人類の過去を観察して来た歴史家が、原始以来のこの素朴な事実を見直して、今更ながら感に打たれたのだ。

2021.12.08


〔24〕

 Few men by their death can have given such deep satisfaction to so many.
                                Casandra(William Conner)

 《訳》  死して、あれほど多くの人々にあれだけ深い満足感を与えることの出来た人物はまずいないだろう。
                                カサンドラ(ウィリアム・コナー)

 ソビエトの政治家スターリン(Joseph Stalin,1879~1953)が死んだときの告別の辞で、『デイリー・ミラー』紙に掲載されたもの。ソビエトの共産党および政府を牛耳った独裁政治家スターリンの死は恐怖時代の終焉をもたらすとされた。彼の専制政治は死後すぐにフルシチョフらに批判されたが、その後のソビエト連邦の政治に深い傷跡を残し、ソビエト連邦は1991年に崩壊した。

 カサンドラは『デイリー・ミラー』紙のコラムの筆者ウィリアム・コナー(1909~67)のペンネーム。

2021.11.20


〔25〕

 The sun, the moon and the stars would have disappeared long ago, had they happened to be within reach of predatory human hands.
                                Havelock Ellis

 《訳》  太陽、月、それに星はとっくの昔に姿を消していただろう、もしも何でも分捕ってしまう人類の手の届くところにあったならば。
                                ハヴェロック・エリス

 癌細胞のように増殖し自然破壊を続けていく人類を「地球の略奪者、捕食者」と定義して憚らない。人類はいかに多くの自然界の動しょく物を絶滅に追いやったことか。人類の見識の無さを憤慨した発言といえる。

 ハヴェロック・エリス(1859~1939)はイギリスの医師で心理学者。

2021.11.18


〔26〕

 If we can stay alive, my guess is that we will someday amaze ourselves by what we can become as a species.
                                Lewis Thomas

 《訳》  もしもこのまま生き続けられれば、われわれが種としてどんなものになれるかに驚く日がいつかきっとくるだろう。
                                ルイズ・トマス

 太古以来さまざまな種が生成発展してきたが、中には一時期大いに繁栄しながらもやがて滅亡していった種もある。われわれ人類はまだ種としては発展途上にある。これからどんな種に発展していくのだろうか。遙か未来のことだろうが、もしもこのままわれわれが生きつづけられれば、その姿を見てきっとびっくりするだろう。

 ルイズ・トマス(1913~23)はアメリカ人で、医学および生物学の大家であった。彼のエッセイ集『細胞の生活』(The Lives of a Cell, 1974)はナショナル・ブック・アウォ―ド(全米図書賞)を受けベストセラーだった。

2021.12.03


〔27〕

 I don't mind in a man's world as long as I can be a woman in it.
                                Marilyn Monroe

 《訳》  男性の世界の中で女性でいられる限り、男性の世界で暮すのはいやなことではありません。
                                マリリン・モンロー

 マリリン・モンロー(1926~62)は性的魅力で一世を風靡したアメリカの映画女優。男性の関心の的であり続けることを願った発言ともとれる。有名人との結婚・離婚や、ケネディ大統領との関係が取り沙汰された。死後十数年経過した今日でも、根強い人気がある。一介の女性が自分の意図とは裏腹に運命に翻弄された一例を見る思いがする。

2021.11.20


〔28〕

 Every man is the creature of the age in which he lives; very few are able to raise themselves above the ideas of the time.
                                Voltaire (François-Marie Arouet)

 《訳》  人は皆その人が生きる時代の申し子だ。時代の思潮を超越できる人はほんの一握りしかいない。
                                ヴォルテール(本名フランソワ・マリー・アルエ)

 人が時代の思想に影響されずに、超然とした生活を営み、独創的なアイディアを出し、これを実行に移すのは至難のことだ。ヴォルテール(1694~1778)はフランスの啓蒙時代を代表する哲学者、作家、社会の不正や不寛容を攻撃したことで知られる。([93][140]参照)

2021.11.20


☆2 人 生☆ P.30~52
〔29〕

 There is nothing so nice as doing good by stealth and being found out by accident.
                                Charles Lamb

 《訳》  人に隠れて何か善行をしてそれが偶然見つかってしまう――およそ人生にこんな楽しいことはない。  ラムの言葉はすでに[20]でも引用したが、イギリスの大エッセイスト。彼は偉人でも哲人でも詩人でもなく、人間としてはごく普通の善人であった。そんな人柄でなくてはこの言葉をとても口から出せないだろう。この言葉をよく味わってみると実に美しい言葉ではないか。

 この本にはいろいろな名言を選んでいるが、ごく平凡な人が発したこんな無邪気な美しい言葉はめったに見つかるまい。これは著者の愛してやまぬ名言である。

2021.11.16


〔30〕

 Boys, be ambitious, like this old man.
                                William S. Clark

 《訳》  青年よ、志は大きく持て、この老人のように。
                                ウィリアム・S・クーラ

 札幌農学校を辞めて帰るとき、見送りに来た学生にクラーク先生(1826~1886)が与えた別れの言葉のうち Boys, be ambitious! だけが有名になり、「少年よ、大志を抱け」の訳語で親しまれている。クラーク先生はアメリカの南北戦争のとき、リンカン大統領の下で活躍した陸軍大佐であった。のちアマースト大学の学長をしていた1876年(明治9年)、日本政府から招かれ、一年間の休暇を取って、札幌農学校(のちの北海道大学)の教頭を務めた。わずか一年きりの任期であったが、その人格は学生に深い感銘を与え、その中から新渡戸稲造(にとべ いなぞう)や新島襄(にじま じよう)など優秀な人材が生まれた。

もう数十年以前のことだが、そのときの学生の中から、あの「少年よ、大志を抱け」の話は事実と少し違うぞ、という声が起こって、それが北大の校友会誌に載り、東京の朝日新聞にも報道された。Boys, be ambitious. のあとに like this old man 「この老人のように」と続いていた、というのである。

 Boys, be ambitious!だけなら、「少年よ、大志を抱け>にちがいない。天下の青年男子を激励する強烈な大号令と受け取るだろうが、すぐそれに like this old man「この老人のように」と続けると、激烈な大号令とは語調が変ってくる、「諸君は、志は大きく持ちたまえ、ぼくはもう老人だが、この老人に負けないように」とでもいう心持ちではなかろうか。激しく鼓舞する言葉よりも、もう少しなごやかな訣別の言葉だったように思う。このときクラーク先生は50歳を出たばかりだった。その年齢のアメリカ人で、しかも太平洋を渡って未開の後進国へ一ヵ年出張して来た人が、自分のことを果たして「老人」というだろうか疑わしくも思う。しかし、その現場にいた生き証人たちの言葉を信用するのが礼儀だろう。そこでこの本ではわざわざ like this old man をつけた形を出しておく。

 強烈な激励の号令と受け取ってそれなりの向上の足がかりとした人もあれば、しみじみした穏やかな別れの言葉と受け取った人もあり、受け取り方はさまざまのところが、人生ありのままの姿かもしれない。人生の、また言葉というものの、デリケートさを思わせる話ではないか。(『雑草園独語 P.9-10参照』)

2008.6.20


〔31〕

 Home is the sailor, home from the sea,

And the hunter home from the hill.
                                Robert L. Stevenson

 《訳》  舟人は帰り来りぬ、海よりわが家へ,

      狩人は帰り来りぬ、山よりわが家へ,
                                ロバート・L・スティーヴンソン

 イギリスの小説家スティーヴンソン(1850~94)は、晩年南太平上のサモア島に住み、ツーシターラ(Tu・si・ta・la、「語り部」)の敬称で呼ばれるほど原住民に慕われ、死んで島の山上に葬られた。これは墓に刻んだ自作の墓碑銘の一部、全体で八行の短詩形で、引用した部分はその最後の二行、すぐ前に、「彼は横たわる、その望みしところ」(Here he lies where he longed to be;)とあって、この二行が続く。過ごした一生に満足して人生に別れを告げ、自分の望む土地で永遠の眠りにつく、という心境である。これほど平静な心境をみずから墓碑銘に書いた人物はあまりないだろう。(『雑草園雑筆』p.41.[52])

2021.11.27


〔32〕

Hitch your wagon to a star.
                                 Ralph W. Emerson

 《訳》  自分の馬車を星につなげ。
                                 ラルフ・W・エマソン

 星を最も高遠なもののシンボルとして、「高遠な理想を持て:理想は高邁なれ」を意味する。アメリカの思想家エマソン(1803~82)の有名な言葉。この言葉につづいて「ただ暮しに役立つだけの下等な仕事に沈みはてるな――正義(justice)・愛(love)・自由(freedom)・知識(knowledge)・公益(utility)のために働け」とある。([59][68][128]参照)      

2021.11.18                          


〔33〕

Footprints on the sands of time.
                                 Henry・W. Longfellow

 《訳》  時の砂漠に残る足跡。
                                 ヘンリー・W・ロングフェロー

 有名な詩[人生賛歌]('A Psalm of Life')の一節である。この前に[すべて偉人の生涯を教えてくれる――われわれも気高い一生を送って、世を去るときは、残していくことができる……]とあって、[時の砂漠に残る足跡]とつづく。生きているうちに何か後世に残る仕事をしておこう、という教えである。the sands of time は、過去から未来へと続く時間を、果てしない砂漠にたとえたものである。        

 アメリカの詩人ロングフェロー(1808~82)はこうした健全な人生哲学を歌った数多くの詩を残している。

 芥川龍之介の作品『毛利先生』に、ロングフェローのこの人生賛歌の引用がある。老教師が英語教科書中の一節 'Life is real, life is earnest!' に悪戦苦闘しながら、生徒たちに真顔で[人生は本物なり、人生は真剣なり]と説くが、所詮は馬耳東風に帰す。

※参考:芥川龍之介著『毛利先生』は青空文庫に記載されている。

2021.12.08 


〔34〕

Middle age is the Time when a man is always thinking that in a week or two he will feel as good as ever.
                                 Don Marquis

 《訳》  あと一週間か二週間もすれば、またもとのように元気になるさ、といつも思っている――それが中年というものだ。
                                 ドン・マーキス

 ドン・マーキス(1878~1937)はアメリカのジャーナリスト、ユーモア作家。        

 アメリカの詩人ロングフェロー(1808~82)はこうした健全な人生哲学を歌った数多くの詩を残している。

 アメリカのユーモア作家、エヴァン作家、エヴァン・イーーサーは The time in life when a man begins to lose his hair, his teeth and his illusions.(中年とは、髪の毛と歯と幻想がなくなりかける時期)と、ユーモラスに(当事者にとっては深刻だが)と定義している。

2021.12.09 


〔35〕

 I do not know what I may appear to the world, but to myself I seem to have been only like a boy playing on the seashore and diverting my self in now and then finding a smoother pebble or a prettier shell than ordinary whilst the great ocean of truth lay all undiscovered before me.
                                Isaac Newton

 《訳》  この私が世間にどう見えるか、私にはわからない。しかし、私自身には、あらゆる未発見の真実が大洋のように目の前にひろがっているのに、浜辺で遊んでいてときどき滑らかな小石や普通よりは綺麗な貝殻を見つけて楽しんでいる子供にすぎないように思われる。
                                アイザック・ニュートン

 万有引力やら光の合成理論の発見その他で、24歳で、世界一流の物理学者になったニュートン(1642~1727)の述懐である。自分の成し遂げた幾多の大発見も、さまざまな未発見の世界にくらべると、綺麗な小石や貝殻を拾って喜んでいる子供の遊びにすぎないと考え、大事業を成しとげながら、自分は実に小さな仕事しかできなかった、としみじみとした感慨に沈んでいる。

 彼は一流の大学者になったのちなお60年学者として過ごしたが、その60年間にどんな学問をしたか調べてみると、錬金術などおよそ学問といえない仕事ばかりした。大学者の名声を抱いてそんな生活をしたのだから、もしも24歳で死んでいたならば、彼の伝記は遙かに純潔であったろう。人生は難しいものである。

2021.11.11


〔36〕

 Men fear silence as they feel solitude, because both give them a glimpse of the terror of life's nothingness.
                                Andre Maurois

 《訳》  人は孤独を恐れるのと同じく静寂を恐れる。その理由は孤独も静寂も人生は虚無だという恐ろしさをチラリと窺わせるからだ。
                                アンドレ・モーロア

モーロア(1885~1967)はフランスの小説家、伝記作家、評論家。もし彼が一般のフランス人並みにカトリック教徒だったら、こんな痛烈な人生論は説かなかっただろう。人生を虚無と断定して、神も永遠も全く信じない者の発言だから。

2008.6.20


〔37〕

It is not true that suffering ennobles the character; happiness does that sometimes, but suffering, for the most part, makes men petty and vindictive.
                                Somerset Maugham

 《訳》  苦労が人格を高めるというのは真実ではない。ときに幸福はそれをすることがあるが、苦労は多くの場合、人を偏狭にし執念ぶかくする。
                                サマセット・モーム

 人は苦労すれば人格が鍛えられ高められる――その意味の言葉はたくさんある。たとえば Adoversity makes a man wise.(艱難なんじんを珠にす)とか、Adversity makes a man of you.(逆境は人を一人前にする)があり、シェイクスピアにも Sweet are the uses of adversity.(逆境の効用はすばらしきかな)(『お気に召すまま』第2幕第1場)などと有名な句がある。

 ところがモームのこの言葉はそれの正反対だ。おそらく彼は、現実の人生ではむしろこれが普通で、苦労によって円満な人格が完成するというのは職業的な道徳論者のウソだ、と言いたいのだろう。その意味でこれは類の少ない貴重な意見である。これは吃音に苦しみ、劣等感を克服「し、小説家、劇作家として大成したモームの心情が吐露されているのかもしれない。

 モーム(1874~1965)はイギリスの小説家、劇作家。『月と六ペンス』(The moon and Sixpence, 1916).『人間の絆』(Of Human Bandage, 1915)を始め多くの作品がある。やや通俗的な一面もあるが人気が高かった。モームの姓は Maughamと書く。日本では、古くは「モーガム」と、誤って読んだ例がある。([62][63]参照)

2021.11.29


〔38〕

 The toughest thing about success is that you've get to keep on being a success.
                                Irving Berlin

 《訳》  成功の一番難しいところは、成功者になってからもそのままでいることだ。
                                アーヴィン・バーㇼン

 バーㇼン(1888~1989)は、"There's No Business Like Show Business"(ショーほどすてきな商売はない) "White Christmas"(ホワイト・クリスマス)のヒットソングで有名なアメリカのシングーソング・ライター――(singer-song writer).

Talent is only a starting point in this business, You've got to keep on working that tarent. Someday I'll reach for it and it won't be there.(その才能を磨き続けなければならないのだ。私がその才能を掴まえようと手を伸ばしても、もうそこにはない――そんな日がいつかくるだろう)と上記の発言に続く。

2021.12.10


〔39〕

 There is no saddler sight than a young pessimist, except an old optimist
                                Mark Twain

 《訳》  年寄の楽観主義者をのぞけば、若者で悲観主義者ほど見ていてやり切れないものはない。
                                マーク・トウェイン

 マーク・トウェイン(1835~1910)はアメリカ的ユーモアを作品に表し、作家としても大成功した人物であったが、後半は事業に失敗し、負債を清算するために講演旅行に、執筆活動に精出さねばならなくなった。晩年は次第に悲観主義に陥り、失意のうちに生涯を閉じた。The man who is a pessimist before 48 knows too much; if he is an optimist after it, he knows too little.(48歳にならないうちに悲観主義者になる人は物事を知り過ぎだ。48歳を過ぎても楽天家なら物事を知らなすぎる)。楽天家から悲観主義者に変貌したマーク・トウェインならではの発言だ。([50][51][66][150][157][174][176]参照)

2008.06.20


〔40〕

 The world is a comedy to those that think, a tragedy to those that feel.
                                Horace Walpole

 《訳》  この世は思考の人には喜劇、感情の人には悲劇である。
                                ホレス・ウォルポール

 ウォルポール(1717~97)はイギリスの作家でゴシック物語『オウトラント城』(The Castle of a Otoranto, 1764)が有名。書簡文の名家としてもよく知られており、辛辣ながらウイットに富む世相諷刺を行なっている。

                                  All the world's a stage/And all the men and women merely players:/They have their exits and entrance;/And one man in his time plays many parts.(人間世界はことごとくお芝居だ。そして男も女もみな役者にすぎない。めいめいが出たり入ったり独りで幾役もつとめる)で始まるシェクスピアの『お気に召すまま』第二幕第7場のセリフは、人々を舞台俳優と見たて、人間の一生をたくみに言い表わして広く知られるところ、人生を喜劇に見なすか悲劇とみなすかは、人生の幕引きの瞬間に裁定が下されるのかもしれない。

2021.12.10


〔41〕

 If, after I depart this vale, you ever remember me and have thought to please my ghost, forgive some sinner and wink your eye at homely girl.
                                Henry I. Mencken

 《訳》  私がこの世を立ち去ったてのち、もし君が私のことを思い出して私の霊をなぐさめようと思ったら、誰かひとり罪人(の罪)を許し、誰かひとりぶ器量な女にウインクしてやりたまえ。
                                ヘンリー・メンケン

 これはメンケン(1880~1956)が自分の墓碑銘に選んだユーモアあふれる金言。彼はアメリカのジャーナリスト、評論家、随筆家として、民主主義や中産階級のアメリカ文化の欠陥を格好の標的として、ウイットに富む論評を展開した。I confess I enjoy democracy immensely. It is incomparably idiotic, and hence incomparably amusing.(正直言うと、私は民主主義を大いに楽しんでいる。何しろ比べられないくらい間が抜けている。だからこそ、比べようのpないほど可笑しくてたまらないのだ)

 また、彼はアメリカ英語の発達と重要性を示した(The American Language, (1918)の編者でもある。([69][147]参照)

2021.11.30


〔42〕

More light!
                                Johann W. Geothe

 《訳》  もっと光を!
                                ヨハン・W・ゲーテ

 ドイツの詩人・作家・哲学者・科学者としての金字塔を打ち立てたゲーテ(1794~1832)の臨終の言葉として知られる。大文豪のことだけに含蓄が深そうだが薄暗いからカーテンを開けろ、という説もあって、正しい解釈はなかなかむずかしい。

 ゲーテの代表作には、『若きウェルテルの悩み』(Die Leiden des jungen Werthers, 17774),『ウイルヘルムマイスターの修行時代』(Wilhelm Meister Lehrjahre, 1795~96)『ファウスト』(Faust, 1808~32)などが挙げられる。

2008.6.21


〔43〕

Myself when young did eagerly frequent
Doctor and Saint, and heard great argument
About it and about: but evermore
Come out by the same door as in I went.
                                Omarl Khayyam

 《訳》  われ若かりし頃、
     医師や聖者(ひじり)のもとに足繁く通い、
      耳にしたり、かの優れた人生談義を、
     されど、入りし同じ扉よりわれ再び出で立ちぬ。
                                オマル・ハイヤーム

 オマル・ハイヤーム(1050?~1123)は古代ペルシャの詩人、数学者、天文学者、彼の詩集『ルバイヤーㇳ』(Rubaiyat)は 神秘哲学的な抒情詩で、全編に無常観が漂う。イギリス詩人エドワード・フィッツジェラルド(Edward Fitzgerald, 1809-83)の英訳(1859)により世界に広まった。  

 人生の奥義を見出そうと、聖者の門を叩き、必死に彼らの議論に耳を傾けるが、その努力も徒労に終わる。引用の詩の直後に、 自ら英知の種を蒔き、育て、刈り取った収穫は[われ水のごとくに現れ、風のごとくに去り行く](I came like Water, and like Wind I go.)という有為転変の人生に対する悟りであった。筆者は若い頃この部分に特に感動したものだ。

2021.12.12


〔44〕

Full many a flower is born to blush unseen,
And waste its sweetness on the desert air.                                 Thomas Gray

 《訳》  いと多き花々人目にふれず恥じらいて咲き/砂漠の大気の中にかぐわしき香りを捨てる。
                                トマス・グレイ

 トマス・グレイ(1716~71)はイギリスのロマン主義の先駆者と考えられている詩人。引用は運命のはかなさを歎じた[慕畔の哀歌]('Elegy written in a Country-Yard", 1751)の一部。この詩の翻訳は『新体詩抄』(1882)に載り、わが国の明治文学に大きな影響を与えた。    

 (参考)[数知れず花は咲き人見ねど恥じらひて] 

      そのかほり空しく砂漠に散りぞゆく]
                                福原麟太郎

2021.12.13


〔45〕

Keep your face to the sunshine and you cannot see the shadow.
                                Helen Keller

 《訳》  日の差す方に顔をむけていなさい、そうすれば、影はみえませんよ。
                                ヘレン・ケラー

 ヘレン・ケラー(1880~1968)はアメリカの教育家。視覚・聴覚障害を乗り越え、ソーシャルワーカーとして活躍した。家庭教師アン・サリバンの指導の下に読み、書き、話す能力を習得した。新しい世界を垣間見ることができるようになった感動は自伝『私の生涯』(The Story of y life,(1902)に詳しい。

 この言葉はヘレン・ケラー女史が障害者のために「光を」かざし続けた、前向きな姿勢を反映したものである。

関連:ヘレン・ケラー

2008.6.22


〔46〕

The man who regards his own life and that of his fellow creatures as meaningless is not merely unhappy but hardly fit for life.
                                Albert Einstein

 《訳》  自分の人生も同胞の人生も無意味だと思う者は、不幸であるばかりでなくほとんど生きる資格に欠けているのだ。
                                アルベルㇳ・アインシュタイン

 この言葉はアインシュタイン(1870-1955)の人生観をよく物語っている。彼はまた壮大な未知の世界を渉猟する科学者として謙虚の述懐もしている。それを示す文を少し長いが引用しておく。

The most beautiful emotion we can experience is the mystical. It is the power of all true art and science. He to whom this emotion ia a stranger, who can no longer wonder and stand rapt in awe, is as good as dead. To know that what is impenetrable to us really exists, manifesting itself as the highest wisdom and the most radiant beauty, which our dull faculties can comprehend only in their most primitive forms―this knowledge, this feeling, is at the center of true religiousness. In this sense, and in this sense only, I belong to the rank of devoutly religious man.

《訳》  (人間が経験できる最も美しい情感に無縁な人や、畏怖の念に駆られ驚嘆し立ち尽くすことがもはやできない者は死んだも同然だ。われわれ人間には理解できないものが実在し、至高の英知としてまた最も光輝ある美として姿を表す。だが、凡庸な人間の能力ではそのほんの初歩の形態でしか理解できないことをわきまえる――この認識、この感覚こそ正真正銘の信仰の中核をなすものである。この意味で、この意味でのみ、私は敬虔な信仰者の仲間入りをするのである)([172]参照)


〔47〕

Happiness is like coke――something you get a by-product in the process of making something else.
                                Aldous Huxley

 《訳》  幸福なんてコークスのようなものさ、何か他の物をこしらえているうちに副産物として手に入るものだ。
                                オルダス・ハックスレー

 幸福とは何か? 大上段に構えていても明確な解答が得られるはずはない。職業なり興味関心を追求する過程で付いてくる附属品だというのだ。幸福の’青い鳥’は身近にあるのかもしれない。机上の空理空論を弄ぶ学者先生への痛烈な批判とも受け取れる。

 オルダス・ハックスレー(1894~1963)はイギリスの小説家・思想家で、社会風刺的な作品『恋愛対位法』(Point Counter oint. 1928),『見事な新世界』(Brave New World, 1932)などで知られる。ハックスレーはシェクスピア戯曲などから自由自在に引用して実に凝った書名をつけていた。(「むずかしいタイトル」『英語青年』第124巻第6号p.34-35,[84]参照)

2021.11.30


☆3 読  書☆ P.53~65
〔48〕

Some books are to be tasted, others to be swallowed, and some few to be chewed and digested.
                                Francis Bacon

 《訳》  味わうべき本もあれば、鵜呑みにすべき本もあり、よく咀嚼して消化すべき本の少しはある。
                                フランシス・ベーコン

 本の種類によって読む態度をきめる必要がある、という教え。本が多すぎ現代では、丁寧に読むべき本をいい加減に読みとばす 危険が多いだろう。フランシス・ベーコン(1561~1626)はイギリスの哲学者、政治家、随筆家であった。[144]参照

2021.12.02


〔49〕

The first time I read an excellent book, it is to me just as if I had gained a new friend. When I read over a book I perused before, it resembles the meeting with an old friend.
                                Oliver Goldsmith

 《訳》  すぐれた本をはじめて読むとき、私はまるで新しい友達が一人できたような気がする。前に熟読しやことのある本をま た読むときは、古い友達に出会ったような気がする。
                                オリヴァー・ゴールドスミス

 ゴールドスミス(1728~74)はイギリスの詩人、劇作家、小説家。『ウェイクフィールドの牧師』(The Vicar of Wakefield, 1766)で有名。これは読者の利益と楽しみを教える言葉。18世紀の作家だけに ed(=got)だの perused (=read carefully) だの、やはり古風な言い方をしている。 

 彼はまた古いものへの愛着を次のようにユーモラスに言及する:I love everything that's old: old friends, old times, old manners, old books, old wines; and I believe, Dorothy, you'll own I have been pretty fond of an old wife.(私は古いものなら何でも好きでたまらない。古い友人、昔の日々、昔のしきたり、昔の本、それに古いワイン、それに、ドロシーいいかね。年 取った妻を結構気に入っていることを認めてくっると信じているかね)

2021.12.07


〔50〕

The man who does not read good books has no advantage over the book who can't read them.
                                Mark Twain

 《訳》 良書を読まないものはその本を読めないものにまさることなし。
                                マーク・ㇳウェイン

 たとえ文字が読めても、良書を読まなければ文盲の人と同じことである。『トムソ―ヤの冒険』(The Adventures of Tom Sawyer, 1884)でよく知られたアメリカの小説家マーク・トウィンは英知をひそめたユーモラスな言葉をたくさん残した。([39][51][66][156][157][174][176]参照)

2008.7.1


〔51〕

 A classic is something that everybody wants to have read and nobody wants to read.
                                Mark Twain

 《訳》  古典とは誰でも読んでおけばよかったと思っているが、誰ひとり読みたいとは思わない本のことだ。
                                マーク・トウェイン

  古典といえば評判だけは高いが、実際には誰も読みたがらない本のことだ――と、事実を無遠慮に指摘した言葉、言われてみると、なるほど実は自分もその通りだ、と思い当る人が多いだろう。マーク・トウェインはこの種の無遠慮な言葉をたくさん残している。

 これで思い出すのは芥川龍之介の発言だ。「古典の作者の幸福なる所以は兎に角彼等の死んでいることである」『侏儒の言葉』生き恥を免れている、とは作者への無遠慮で痛烈な献辞だ。([39][50][66][150][157][174][176]参照)

※参考:「古典の作者の幸福なる所以は兎に角彼等の死んでいることである」『侏儒の言葉』は岩波文庫(昭和二十五年一月二十五日第十五刷発行)P.21に記載されている。

2008.6.22


〔52〕

 Books are good enough in their own way, but they are a mighty bloodless substitute for life:
                                Robert L. Stevenson

 《訳》  本というものはそれなりになかなか結構なものだが、生活の代表品としてはきわめて生気のないものだ。
                                ロバート・L・スティーヴンソン

 書物を有益なものとする意見は無数にあるが、重要なのは生活そのもので、書物の中にあるのは現実でなくて知識にすぎない。 書物を尊重するのもいいが、重要なのは実生活であることを忘れてはならない。 

 スティーヴンソンは[31]でも取り上げたが、スコットランド生まれのイギリス人作家。虚弱な体質であったが、世界を広く旅し た。イギリスの小説の中で、日本で一ばん広く読まれているのは、彼の代表作である冒険小説『宝島』(Treasure Island, 1883)かも知れない。 

2021.11.27


〔53〕

Reading is thinking with someone else's head instead of one's own.
                                Arthur Schopenhauer

 《訳》  読書とは自分の頭の代りに誰か他人の頭で考えることである。
                                アルㇳゥール・ショーペンハウアー

 書いてあることを丸吞みにするのではなく、よく理解したり分析したり批判したりしながら読むのが、本当の読書である。それ にはもちろん頭を使う。しかし、よく考えてみると、材料は書いてあることだから、実は著者の頭を使って考えることが中心とも いえる。それならば凡才の書いた本ではなく、すぐれた人物の著書を読むのが有益なことは明白だ。

 ショーペンハウアー(1788~1860)はドイツの哲学者。厭世的な哲学書『意志と表象としての世界』(The world as Will and Idea,1819)が代表作で、人間生活においては、意志は絶えず他の意志によって阻まれ、生は同時に苦を意味し、この苦を 免れるには意志の滅却・諦観以外にはない、と説いた。  

2021.11.19


〔54〕

If good books did good, the world would have been converted long ago.
                                George Moore

 《訳》  もしも良書が役に立つものだったら、この世はとうの昔にすっかり変っていただろう。
                                ジョージ・ムーア

 

 ジョージ・ムーア(1852~1933)はアイルランド生まれのイギリス小説家、劇作家。良書を読めば人は善人となる、と常識的に考えやすいが、実はそう簡単な人生ではないぞ、と警告した言葉である。  

 芥川龍之介は『侏儒の言葉』の中でジョージ・ムーアの言葉として、[偉大なる画家は名前を入れる場所をちゃんと心得ている]と彼の発言の一部を引用している。

※芥川龍之介『侏儒の言葉』(岩波文庫)(昭和二十五年一月二十五日 第十五刷発行)P.70
 ジョーヂ・ムアアは『我死せる自己の備忘録』の中にかう言ふ言葉を挟んでゐる。――〚偉大なる画家は名前を入れる場所をちゃんと心得てゐるものである。〛

 勿論[決して同じ所に二度と名前を入れぬこと]は如何なる画家にも不可能である。しかしこれは咎めずとも好い。わたしの意外に感じたのは〚偉大なる画家は名前を入れる場所をちゃんと心得てゐる〛という言葉である。東洋の画家には未だ嘗て落款の場所を軽視したるものはない。落款の場所には注意せよなどと言ふのは陳套語である。それを特筆するムアアを思ふと、坐ろに東西の差を感ぜざるを得ない。

2021.12.08


〔55〕

Books serve to show a man that those original thoughts of his aren't very new after all.
                                Abraham Lincoln

 《訳》  自分の独創だと思っている思想も結局は決して新しいものでない、と書物はわれわれに教えてくれる効用がある。
                                アブラハム・リンカーン

 この言葉は訳例を見る前に自分で訳文を工夫してみる価値がある。訳例もあまり上手でないが、ピンとした日本語で直ぐわかる訳文が実に作りにくい文章である。
 《別訳》本は何を教えてくれるかといえば、われわれが自分の独創のつもりでいるさまざまの思想も、結局はあまり新しいものでない、と教えてくれるのだ
 リンカーンは、巧まずして自然とユーモアを生む言葉をいくつも残している。この文もその一つ。リンカンという大人物の持ち味の一つといえるだろう。([15][97][98][99][141][152]参照)  

2017.2.19


〔56〕

 The books that everybody admires are those that nobody reads.
                                Anatole France

 《訳》  あらゆる人がほめ立てる本は、誰ひとり読まない本だ。
                                アナトール・フランス

 興味本位の低級な本ばかり読んでいる人でも、口先だけは高級な良書をほめ立てたりすることがある。こんな良書を読んでいるのか、と人に思われたいかである。その傾向を思うと、人のほめる本にすぐ手を出すのは警戒する必要があるわけだ。人の弱点に対する皮肉な警告の言葉である。

 ([14][57][70][183]参照)

2021.11.20


〔57〕

 Never lend books, for no one ever returns them; the only books I have in my library are books that other folks have lent me.
                                Anatole France

 《訳》  決して本を人には貸すな。本を返す者は一人もないからだ。私の書庫にある本はみな人が貸してくれた本ばかりだぞ。
                                アナトール・フランス

 アナトール・フランスはパリ生まれ、国名をペンネームにしていたフランスのノーベル賞作家。博学で有名だったから、とても人から借りた本だけでは足りたはずはない。この言葉はもちろんジョークとして言ったのだろう。([14][56][70][183]参照)

2021.11.20


〔58〕

One always tend to overpraise a long book, because one has got through it. 
                                Edward M. Forster

 《訳》  長い本は、自分が最後まで読み通しているという理由で、ほめすぎる傾向がある。
                                エドワード・M・フォスター

 よほど辛抱しないととても終りまで読み通せないほど厚い本があるものだ。もしもそんな本をとにかく通読すると、あれは名著だぞ、などと事実以上に褒めたてることがありはしないか。そんな長い本をちゃんと読んでいるだけで、自分に貫録がつくからだ。読書の心理の一面についての鋭敏な観察である。

 フォスター(1879~1970)はイギリスの小説家、批評家。名作『インドへの道』(A Passage to India, 1924)その他で現代の最もイギリス的作家ともいわれている。

2021.12.08


〔59〕

The three practical rules, then, which I have to offer, are,―

 1. Never read any book that is not a year old.

 2. Never read any but the famous books.

 3. Never read any but what you like. 
                                Ralph W. Emerson

 《訳》  それでは、私が人に勧めることにしている三つの実用的なやり方とは:

 1. 刊行後一年未満の本は読むな。

 2. 名声の確立した本以外は読むな。

 3. 自分の好みの本以外は読むな。
                                ラルフ・W・エマソン

 [48]のベーコンの読書についての忠告とともに実に味わうべき至言である。([32][68][128]参照)

2008.6.23


☆4 人間と宗教☆ P.66~82
〔60〕

 Man is certainly stark mad: he cannot make a worm, and yet he makes gods by the dozen.
                                Michel Montagne

 《訳》  人間は確かに全く気が狂っている。ミズミ一匹こしられないのに、そのくせ神さまは何十もこしらえる。
                                ミシェル・モンテーニュ
 モンテーニュ(1553~92)はフランスの思想家。この言葉からもわかる通り、彼は懐疑家であったが、宗教戦争の燃えさかる時代 にボルドー市の市長を二度にわたって無事に勤めた。主著『瞑想録』(Essais, 1572-80,1588)は現代にも読まれる古典で ある。

 原文はもちろんフランス語であるので、参考までに別の英訳をを紹介しておく:(Oh senseless man, who cannot possibly make a worm and yet will make Gods by dozens.)([85]参照) 

2021.12.01


〔61〕

 If men are so wicked with religion, what would they be without it?
                                Benjamin Franklin

 《訳》  宗教があっても人間はこれほど邪悪だとすれば、もしも宗教がなかったなら、どんな状態であっただろう?
                                ベンジャミン・フランクリン

 ベンジャミン・フランクリンはワシントンおよびリンカーンと共にアメリカ三大偉人の一人に数えられる大人物で、政治、外交、科学、発明、著述、出版、社会事業と、おどろくほど多方面で活動をした。今では広く読まれるのは有名な『自伝』 (Autobiography,1868)と『貧しいリチャードの暦』(Poor Richard's Almanack,1733-58)くらいのものだろう。([18][159]、『この多彩な英語』p.34参照) 

2021.11.22


〔62〕

I don't know why it is that the religious never ascribe common sense to God.
                                Somerset Maugham

 《訳》  信心深い人が神は常識をもちたまう、と決して言わないのは一体なぜだろう。
                                サマセット・モーム

 イギリスの作家モームは人間心理の表裏を細かく描く作家だから、宗教に反対するにもこんな点が目につくらしい。どの宗教に も常識豊かな神はあまり出てこないようだ。([37][63]参照)

2021.11.17


〔63〕

In heaven when the blessed use the telephone they will say what they have to say not a word besides.
                                Somerset Maugham

 《訳》  天国では(天国の)住民が電話を使うとき、ただ用事だけ話してあとは一言も言わないのだろう。
                                サマセット・モーム

 「天国の住民はたぶん無駄口をきかないのだろうね」とはモームらしい皮肉。大酒飲みが天国の説教を聞かされたあと、「天国にもいい飲み屋があるんですか」と言った話を思い出す。 ([37][62]参照)

2021.11.30


〔64〕

So far as I can remember, there is not one word in the Gospels in praise of intelligence.
                                Bertrand Russell

 《訳》  およそわたしの記憶にある限り、聖書の中に知性をたたえる言葉はただの一語もない。
                               バートランド・ラッセル

 「知性をたたえる言葉が一語もない」と言われると、誰もギクㇼと思い当るだろう。ラッセル(1872~1970)は代数学者であり、哲学者でもあり、聖書を見るにも知性の目を忘れなかった。([65]参照)                        

2021.11.17


〔65〕

Christ believed in hell. I do not myself that any person who is really profoundly human can believe in everlasting punishment.
                                Bertrand Russell

 《訳》  キリストは地獄の存在を信じていた。本当に慈悲心の深い人間が永久の刑罰の価値を信じるとは、この私にはどうもぴんとこない。
                               バートランド・ラッセル

 キリストの教えは罪びとは地獄に落ちて eternal punishment 「永劫の罰」を受けるのを当然としている。山を動かす信仰があっても愛がなければ価値なし、とした考え方と矛盾するではないか、という思想である。

 ラッセルには宗教を科学者のの目で冷静に見た著作『私はなぜキリスト教徒でないか』(Why I am Not A Christian,1957)がある。これはキリスト教的人道主義者・内村鑑三の『余は如何にして基督教徒となりにしか』と好対照である。([64]参 照)                        

2021.11.26


〔66〕

 I don't like to commit myself about heaven and hell――you see, I have friends in both places.
                                Mark Twain

 《訳》 天国と地獄について意見をのべるのはいやだ――何しろ、どちらにも友達がいるんでね。
                                マーク・トウェイン

 マーク・トウェイン独特のユーモアだろう。天国に召されるか地獄に落されるかの御沙汰は神様の胸先三寸できまるのだろうか 。ㇳウェインが肩を竦めている様子が目に浮かぶようである。 ([39][50][51][150][157][174][176]参照)

2008.6.22


〔67〕

The only power a god can teach is the power of doing without happiness.
                                George B. Shaw

 《訳》  神が教え得る唯一の能力は、幸福というものなしで暮す能力だけである。
                               ジュ―ジ・B・ショー

 神はどうやら幸福など問題にせず存在しているらしい。その点は人間とくらべて断然すばらしい。([9]参照)        

2021.11.17


〔68〕

All the religions we have are the ethics of one or another holy person.
                                 Ralph W. Emerson

 《訳》  現存するあらゆる宗教は誰かある一聖者の倫理である。
                                 ラルフ・W・エマソン

 エマソンは19世紀アメリカの思想家、詩人、理神論にもとづいてユニテリアン主義を説いた。([32][59][128]参照)     

2021.11.18


〔69〕

 A church is a place in which a gentleman who has never been to heaven brage about it to persons who will never get there.
                                Henry I. Mencken

 《訳》  教会とは天国へ入ったことのない男が決して天国へ行きそうもない人びとに天国の自慢をする場所である。
                                ヘンリー・メンケン

 ジャーナリストとして自国の文化に徹底的な批判を行なっていたメンケンは既成宗教にも正面きって反対した。この言葉もその 一例。

 彼の次の批評は聖職者からは猛反撃を食らったことだろう。Theology――An effort to explain the unknowable by putting it into terms of the not worth knowing.(神学――わかるはずのないことを、知る価値のない言葉にねじ込んで説明しようとする努 力)([41][147]参照)

2021.11.30


〔70〕

 Religion has done love a great service by making it a sin.
                                Anatole France

 《訳》  恋愛は罪悪としたから宗教は恋愛に偉大な貢献をしたわけだ。
                                アナトール・フランス

 もしも宗教が、恋愛は罪悪なり、といわなかったら、世間は恋愛のことでこれほど大さわぎしなかっただろう。宗教の加えた非 難がかえって恋愛の人気を高めた。皮肉なところに注目した言葉である。

 アナトール・フランスはひたむきな愛を次のように賛美する。Lovers who love truly do not write down their happiness.(心 から愛し合う二人はその喜びを書き留めはしないものだ)彼はわが国の小説家芥川龍之介にも大きな影響を及ぼした。([14][56] [57][183]参照)

2021.11.20


〔71〕

 The two things that a healthy person hates most between heaven and hell are a woman who is not dignified and a man who is.
                                G. K. Chesterton

 《訳》  この世で健全な人がもっとも憎むものは凛としたところのない女性と凛善と構えて男性だ。。
                                G K・チェスタートン

 「凛としたところのない」女性は decency 「品格」に欠ける女性、要するに品のない女性のことか。「凛然と構えている」男性は、さしずめ「お高くとまっている」男性と言ったところだろう。 

 チェタートン(1874~10936)はイギリスのジャーナリスト、作家、ローマカトリック教徒であり、保守的な政見の持ち主として知られる。エッセイ集、ブラウン神父を主人公とする探偵小説シリーズ、批評や論争術に関する著作がある。([71][75]参照)

2021.11.29


〔72〕

 For two thousand years Christianity has been telling us: life is death, death is life; it is high time to consult the dictionary.
                                Remy de Gourmont

 《訳》  過去二千年の間、キリスト教7では、生は死なり、死は生なりと教えてきた。そろそろ辞書を調べてみてもいい頃である。 
                                レミイ・ド・グウルモン

 信仰があれば死も生であり、信仰がなければ生も死である、という類いの宗教関係によく使われる表現を攻撃したものだ。 

 グウルモン(1858~1915)はフランスの作家で、象徴的な小説を書き、批評や哲学の分野でも活躍した。 

※参考:『青空文庫』あり。

2021.12.13


〔73〕

The total absence of humor from the Bible is one of the most singular things in all literature. 
                                Alfred N. Whitehead

 《訳》 聖書にユーモアが全くないことは全文学界においてもっとも奇妙な事実の一つである。
                                アルフレッド・N・ホワイトヘッド

 ホワイトヘッド(1861~1947)はイギリスの数学者、哲学者で、記号論理学の確立に重要な役割を果たした。聖書にユーモアが欠けているとい指摘は、おそらくその冷静な頭脳を物語るものといえる。彼はバートランド・ラッセルと共著で『数学言論』(Principle Mathematics, 1910-1913)を著した。  

2021.12.13


〔74〕

An apology for the devil: it must be remembered that we have heard only one side of the case. God has written all the books.
                                Samuel Butler

 《訳》  悪魔のための弁明――われわれは議論の一方の側しか聞いていない事を忘れてはならない。聖書はすべて神が書いたものなのだ。
                                サミュエル・バトラー

 悪魔の側の言い分はまだ聞いていないという。宗教に反撥していたバトラーの主張である。裁判官が公平な意見でも述べるよう な口調が愉快だ。

 バトラー(1835~1902)は反ユートピア小説『エレホン』(Erehon, 1872)や自伝小説『万人の道』(The Way of All Flesh, 1903)で知られる。

 バトラーはこんなジョークを飛ばしている。All animals, except man, know that the principle business of life is to enjoy it.(動物はちゃんとわきまえている。楽しむことが一生の大事な仕事であることを。人間は別だ)動物の方が人間より一枚上 手だ。([150][161][162]参照)

2021.11.23


〔75〕

 It is the test of a good religion whether you can joke about it.
                                G. K. Chesterton

 《訳》  宗教の良し悪しは、冗談が言えるかどうかで決まる。
                                G K・チェタートン

 優れた宗教には批判を許す包容力が備わっているという。とかく独断専行、狭隘になりがちな宗教に対する批判と受け止められ る。([17][71]参照)

2021.11.29


〔76〕

Religion: A daughter of Hope and Fear, explaining to Ignorance the nature of the Unknowable.
                                Ambrose Bierce

 《訳》  宗教――希望と不安から生まれた娘で、無知の人に知ることのできないものの本質を説明する。
                                アンブローズ・ピアス

 宗教を信じることで人は「不安」が解消され、「希望」が湧いくという。しかし、宗教の奥義をいくら説教されても凡人には分らないままである。

 ピアス(1842~1914?)はアメリカの短編作家、ジャーナリスト。「辛辣なビアス」(bitter Bierce)の異名を持つ。彼の『悪魔の辞典』(The Devil's Dictionary, 1906)は歯に衣着せぬ痛烈な社会批判のアンソロジーである。([164][170])参照

2021.11.19


〔77〕

The devil can cite scripture for his purpose.
                                William Shakespeare

 《訳》  悪魔だって自分に都合よく聖書を引用する。
                                ウイリアム・シェイクスピアピア

 『ヴェニスの商人』第一幕3場のセリフ。高利貸シャイロックを悪魔にたとえ、偽善者の本質を突いた指摘である。悪人までもが 、聖書を我田引水して、自分の行為を正当化しようとする。([10]参照)

2021.11.19


〔78〕

Religion is the opium of the people.
                                Karl Marx

 《訳》  宗教は人民のアヘンである。
                                カール・マルクス

 ソビエト連邦はその存在した約70年間、この言葉にしたがって宗教を削除してきたが、今日、ソ連が崩壊してみると、その間さまざまな形で人民の中に宗教がひそんで生きつづけてきたことが伝えられてきた。もしかすると宗教はアヘン以上に強いものかも しれない。

カール・マルクス(1818~83)はドイツの哲学者。経済学者、革命家、フリードリヒ・エンゲルスの支援の下に、『共産党宣言 』(The Communist Manifesto,1848)や『資本論』(Das Kapital, 1867, 1885,1894)を書いた。([100]参照)


☆5 人間と動物☆ P.83~91
〔79〕

Odd things animals. All dogs look up to you. All cats look down to you. Only a pig looks at you as an equal.
                                Winston Churchill

《訳》 妙なものだな、動物って奴は。イヌはどのイヌもみな人間を尊敬するし、ネコはどのネコも人間を軽蔑する。おれたちを 対等に見てくれるのはブタだけだよ。
                                ウインストン・チャーチル

 第二次世界大戦のとき、首相としてイギリスを勝利に導いたチャーチル(1874~1965)に、こんな無邪気が伝えられているのは 愉快である。ただ無邪気なだけでなく鋭い観察でもある。なるほど、たぶんブタはわれわれを人間と認めるのでなく、単に一種の 動物と受け取るだけで、別に尊敬もしなければ軽蔑もしないのだろう。ブタの目には、人間を詳しく観察するに値しない動物にす ぎないのかもしれない。([103][104]参照)

 ただし、日本人はすべてのネコに見下げられていると思っていないだろう。われわれを愛しているネコがいくらでもいるような 気がしている。もしかするとイギリスのネコは日本のと少し性格が違うのかも知れない。([103][104]参照)

2021.10.30


〔80]

If dogs could talk, perhaps we'd find it just as hard to get along with them as we do with people.
                                Karel Capek

 《訳》  もしイヌに物がいえたなら、おそらく人間と同じくイヌとも仲良くやっていくのが困難になるだろう。
                                カレル・チャペック

 イヌは物が言えないからこそ仲良しでいられる。もし、イヌに口がきけたら、とても現在のように仲良くはできないだろう。この事実に気がついた人は昔からどこの国にもいた。

 チャペック(1890-1938)は旧チェコスロァキアの作家、劇作家。奇抜なアイディアにもとづく清新な作品を得意とする。ロボットア robot [人造人間]という言葉は彼の作品から生まれた。"Man will never be enslaved by mchinery if the man tending the machine be paid enough.(機械を使う人間が十分な報酬がもらえれば、人類は機械の奴隷になることなどあるまい)と、彼の死亡記事の一部にあるが、マルチメディア隆盛も現在、クーロン人間誕生にも彼は驚かないかもしれない。  

 そういえば、イギリスの作家(Saki, 1870-1916)の短編に『ㇳバモㇼー』(Tobermory')という猫が物を言う話がある。彼はこのとっぴな架空の物語によって、人生の虚偽を嘲笑しているのだ。

2021.12.15


〔81]

I have always thought of a dog lover as a dog that was in love with another dog.
                                James Thurber

 《訳》  イヌ好きの人を見ると、ぼくはいつも、これは他のイヌに恋をしているイヌだな、とおもっていた。
                                ジェームス・サーバー

 イヌの大好きな人は世間にたくさんいるが、アメリカのユーモア作家サーバー(1894~1961)は、そんな人を見ると、こいつ正体はやはりイヌで、それが別のイヌに恋をしているんだな、と思ってきたと言っている。つまりは、イヌ好きな人の正体はやはりイヌだぞ、と言うのだから、あまり敬意をもたないわけである。しかし、サーバー自身の描く絵にはたくさんイヌが出てきて、それがどれもこれもかわいい無邪気なイヌばかりだ。してみると、サーバー自身、人間の姿をしたイヌに違いない。 

 サーバー流のユーモアを一つ;Early to rise and early to bed makes a male healthy and wealthy and dead.(早寝早起きは男性を健康に、金持ちに、そして一巻の終りにする)フランクリンの言葉――Early to rise and early to bed makes a man healthy wealthy and wise.(早寝早起きはひとを健康に、金持ちに、そして賢明にする)――のもじり。

 イヌ好きと言えばサミュエル・バトラーにもこんな言葉がある。The great pleasure of a dog is that you may make a fool of yourself with him and not only will be not scold you, but he will make a fool himself too.(イヌとは一緒にばかな真似ができるし、それにイヌは𠮟らないばかりか、自分もばかな真似をしてくれる――これがイヌにまつわる大きな喜びである)

2021.12.17


〔82]

Histories are more full of examples of the fidelity of dogs than of friends.
                                Alexander Pope

 《訳》  歴史は、人間の友達の誠実さの実例よりも、イヌの誠実さの実例に満ちている。
                                アレグザンダー・ポープ

 イヌのの方が人間にくらべて裏切ることをしない。イヌの友情の方が堅実だ、という意見である。忠犬ハチ公を思い出すが、この意見は英米にもよく見られる。

ポープ (1688~1744)は、イギリスの詩人で、諷刺的な詩作で知られる。夏目漱石も傾倒した擬古典主義の代表者で、18世紀前半の詩壇に君臨した。 

 一例を紹介しておく。
Sir, I admit your general rule,
That every poet is a fool,
But you yourself may serve to show it,
That every fool is not a poet.
 詩人はすべて愚か者との
 お説ごもっともなり。
 されど心してお示しなされよ
 愚か者がすべて詩人とは限らぬを。

2021.12.17


〔83]

The more I see of men, the more I like dogs.
                                Madame de Stael

 《訳》  人間というものがよくわかればわかるほど、わたしはイヌがますます好きになる。
                                スタール夫人

 スタール夫人(1766~1817)はフランスの女流作家、批評家で、文壇の庇護者として文人、芸術家の集まりを主宰したことで知られる。 

 引用した発言は、夫人の主張――Wit lies in recognizing the resemblance among things which differ and the difference between things which are alike.(機知とは異なるものに相違を認めることにある)――を文字通り実践した格好の例だろう。  

2021.12.15


〔84]

To his dog, every man is Napoleon; hence the constant popularity of dogs.
                                Aldous Huxley

 《訳》  飼主にとっての人間はみなナポレオンである。だからこそイヌはいつの世にも人気が高いのだ。
                                オルダス・ハックスレー

 飼主に対するイヌの態度は、絶対的な君主に対する臣下と同じだ。それだからこそイヌはいつの世でも人気が高い。

 That all men are equal is a proposition to which, at ordinary times, no sane human being has ever given his assent.(人間平等――まともな人間なら平時には絶対に承知しない戯(ざ)れ言(ごと)さ)[47]参照)

2021.11.30


〔85〕

 When I play with my cat, who knows whether she is not amusing herself with me more than I with he
                                Michel Montagne

 《訳》  私がネコと遊ぶとき、私がネコと遊んで楽しんいる以上に、ネコが私と遊んで楽しんではいないかどうかは、誰にもわからない。
 《別訳》  私がネコと遊ぶとき、実はネコと遊んでいるというよりも、むしろネコが私と遊んでいるのではないか、という疑いが浮かぶ。
                                ミシェル・モンテーニュ
 「私は何を知っているのか」という有名な言葉を残したモンテーニュらしい発言である。この短い言葉にしろ、人間は万物の霊長なりと確信しているタイプの人物には、全く意外な発言だろう。常に知的探求に親しみ、聡明で寛大であった彼の人格がよく わかる。([60]参照) 

2021.12.01


☆6 歴史の空にきらめく言葉☆ P.92~113
〔86〕

Know thyself

 《訳》  汝自身を知れ。

   古代ギリシャのデルフォイにあるアポロンの神殿の柱に記された言葉。古くは「自分の身分をわきまえよ」の意味の処世訓と解されていたが、ソクラテス以後は、まず自分の無知を自覚して真の知識を得るよう努力せよ、という倫理的教訓と受け取られてき た。

 ソクラテスより二世紀も前の哲学者ターレス(Thales,624-545?B.C.)に向かって、この世で一番難しいことは何ですか、と人が質問したとき、ターレスが「自分を知ることだ」と答えたとも伝えられている。19世紀のイギリス思想家カーライルも、これについて「そんなことできるもんか」と言い放ったという話がある。太古から人類の前に立ちふさがる大問題なのだ。

2008.7.1


〔87〕

Eureka! Eureka!(=I have found it! I have found it !)
                                Archimedes

 《訳》  わかったぞ! わかったぞ!
                                アルキメデス

 アルキメデス(287?~212B.C.)は古代ギリシャの数学者、物理学者。これは浮力に関する原理―「アルキメデスの原理」(液体中にある物体はそれが押しのけた液体の重さだけ軽くなるという原理)―を発見したときに発した言葉とされる。

 ある時アルキメデスは、金細工し師が純金に銀を混入して王冠をこしらえたのではないかと疑ったヒロムⅡ世から鑑定を依頼された。共同浴場に浸って思案中、金が同一の重さの銀ほど湯をこぼさないことに気付いた。興奮のあまり裸のまま、上の言葉を叫 びながら家路についたという。発見の喜びを実に率直に表わしたものだ。

 ところで、大部分の科学者はこのような劇的な新事実などとは縁遠い日々を送っているに違いない。相対性理論を提唱したアインシュタイン(Albert Einstein,1879-1955)はこの間の事情をこう述べている。「私は考えに考え続ける、何ヶ月も、何年も。出てきた結論は99%間違いだ。正しいのは1%だけ」

 ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹(1907-81)は自伝『旅人』(1966)の中で、断片的に出現する様々なアイデアを如何に組織化し、中間子理論として集大成したか、科学者の苦闘を真摯に語っている。

2008.7.2


〔88〕

We have two ears and one tongue in order that we may hear more and speak less.
                                Diogenes

 《訳》  耳は二つあるが舌は一枚しかない。それはなるべく多く聞いてなるべく少なく話すようにするためだ。
                                ディオゲネス

 ディオゲネス(Diogenes of Sinope,412~323 B.C.)はギリシャの哲学者。奇行が多いので有名であった。路傍で何か望むことはないかとアレクサンダー大王に聞かれたとき「ありますとも、日陰になるからそこをどいてください」と答えた、という。また 、アテナイの町を昼間ランプを燈して正直者を探したという話も伝わっている。

2008.7.3


〔89〕

Your need is greater than mine.
                                Philip Sidney

 《訳》  君の必要(とする程度)は私の必要(とする程度)よりも大きい→君の方が私以上に(それが)必要だ。
                                フィㇼッピ・シドニー

 イギリスの政治家・軍人・詩人フィㇼッピ・シドニー(1554~86)が戦場で重傷を受け、部下に水を持ってこいと命じた。水の瓶を受け取ったとたん、やはり負傷した一兵卒がその水をじっと見詰めているのに気付くと、彼はこの言葉とともpにその兵卒に水をゆずって飲ませたという。この美談から、自分を犠牲にして人を助けるときの心持を指すようになった。。シドニーは、その負傷がもとでまもなく死んだが、最もよく騎士道精神を体現した人物として讃えられ、イギリスの人々に大きな影響を与えたといわれる。新約聖書ヨハネ伝に Greater love hath no man than this, that a man lay down his life for his friends.(友のために己が命を捨てるより大いなる愛なし)とある。身をもってそれを実践した人物であった。

2021.12.18


〔90〕

I think, therefore I am.
                                Rene Descartes

 《訳》  われ思う、故にわれ在り。
                                ルネ・デカルト

 近代思想の父といわれるデカルト(1596-1650)は、一切に対する懐疑から出発し、この言葉によってまず自己の存在を立証して、数学・物理学・哲学その他の研究を広めた。この言葉に対するラテン語 Cogito, ergo sum は有名で、今もそのまま英語の中に引用されることがある。

 明治、大正のころの大学生は「デカンショぶし」をよく歌ったが、デカンショの語源はカルトのデ、ドイツの哲学者カントのカン、それにやはりドイツの哲学者ショーペンハウアーのショをつないだ合成語と伝えられている。

2008.7.4


〔91〕

Man is no more than a reed, the weakest thing in nature, but he is a thinking reed.
                                Blaise Pascal

 《訳》  人間は一本のアシにすぎない。自然界で最も弱いものである。しかし、人間は思考するアシだ。
                                ブレーズ・パスカル

 パスカル(1623~62)はフランスの数学者、物理学者、哲学者。神童といわれて生涯にわたり多方面な分野で活躍した大学者であった。弱小な存在ながら、人類が万物の霊長であるのは、思考力による、と断言した有名な言葉である。([92]参照)

2021.11.19


〔92〕

If the nose of Cleopatra had been shorter; the whole face of the earth would have been changed.
                                Blaise Pascal

 《訳》  もしもクレオパトラの鼻が低かったら地球の表面はすっかりかり変っていただろう。
                                ブレーズ・パスカル

 古代のエジプト王国には Cleopatra[kli:эpae'trэ]のなを持つプリンセスが何人もいたが、世界一の美人とされて17世紀フランスの哲学者パスカルの『瞑想録』(Pensees,1669)にまでなが出てくるのは、最後のクレオパトラ(69~30B.C.)であろう。夫のプトレマイオス・ディオニソスと共にエジプト王国の共同支配人に任じられたが、王位から追われたり、のちローマ皇帝ジュリアス・シーザ―によって復位されて、シーザーの息子を産んだりした。美人であったためマーク・アントニーとも密接な関係になり、アンㇳニーが自殺したのち、毒蛇に腕を噛ませて自殺したともいわれている。

 わが国の明治時代の詩人たちにとっては、おそらく古代エジプトの美人クレオパトラは小野小町(おのこまち)や楊貴妃(ようきひ)などよりはるかにロマンティックだったのだろう。パスカルのこの言葉はその頃から有名だった。

 どこかでプレオパトラの肌着は何色? こういうクイズを見かけたことがある。正解はチョコレート色であった。沐浴の習慣がなかったからだという。([91]参照)

2021.11.19


〔93〕

I disapprove what you say, but I will defend to the death you right to say it.
                                Voltaire

 《訳》  君の言うことに僕は反対だ。しかし、君がそれを主張する権利は命を賭けて守る。
                                ヴォルテール

 たとえ意見が相違しても、そのために相手を殺すようなことは絶対しない。むしろ自分の命を捨てても相手の発言する権利は擁護する――それが民主主義の原則である。フランス17世紀の大政治家ヴォルテールの言と伝えられて有名だ。

 サミュエル・ジョンソン博士にも言論の権利と責任に言及した発言がある。Every man has a right to utter what he thinks truth, and every other man has a right to knock him down for it.(人は誰でも自分が真実と思うことを言う権利がある;一方その他の人は誰でもその発言ゆえにその人をねじ伏せる権利がある)([28][140]参照)

2021.11.20


〔94〕

Two things fill the mind with ever new and increasing wonder and awe――the starry heavens above me and the moral law within me.
                                Immanuel Kant

 《訳》  絶えず新しく、絶えず迫り来る驚異と畏怖の念を与えるのが二つある。一つは頭上の星空だ。あとの一つはわれらの心に住む道徳律だ。
                                イマニュエル・カント

 たとえ意見が相違しても、そのために相手を殺すようなことは絶対しない。むしろ自分の命を捨てても相手の発言する権利は擁護する――それが民主主義の原則である。フランス17世紀の大政治家ヴォルテールの言と伝えられて有名だ。

 ドイツの大哲学者カント(1724~1804)の名言。このような感慨に沈むことがなくては、人間らしく生きるのは不可能であろう。

 カントは厳しい規律を己に課し、それを確実に実践した。彼の日課は実に厳密で、ケーニヒスベルク(現カリニングラード)の>住民は彼の時間に時計を合わせていたという。

2021.11.20


〔95〕

I know not what course others may take; but as for me, give me liberty or give me death.
                                Patrick Henry

 《訳》  他の人がいかなる道を取るかわからぬが、この私はどうかといえば、自由を与えよ、さもなくば死を。
                                パトリック・ヘンリー

 パトリック・ヘンリー(1736~99)はアメリカの独立戦争当時の指導者、雄弁家で、1775年3月、リッチモンドのヴァージニア代表者会議の席上、上の檄を飛ばして民兵組織創設を主張した。 

 わが国の自由民権運動の立役者、板垣退助(1837-1919)の発言[板垣死すとも自由は死せず]には彼の影響がはっきり見られる。

2021.12.10


〔96〕

"Society in every state is a blessing, but Government, even in its best state, is but a necessary evil; in its worst state, an intolerable one.
                                Thomas Paine

 《訳》  いかなる国家においても社会はありがたいものだが、最高の国家においてさえ政府は必要悪に過ぎなず、最悪の国家においては堪え難い悪である。
                                トマス・ヘイン

 トマス・ヘイン(1737~1809)は前のパトリック・ヘンリーと並ぶアメリカ独立戦争当時の指導者で、革命思想家であった。1776年『コモンセンス』(Common Sense)を著し、アメリカ独立に寄与した。親しみをこめてトム・ペインと呼ばれる。

2021.12.13


〔97〕

 ...government of the people, by the people, for the people shall not perish from the earth.
                                Abraham Lincoln
 《訳》  人民の、人民による、人民のための政治が、この地上から消滅することはない。
                                アブラハム・リンカーン

この文はリンカーンの、ゲティスバーグ演説(Gettysburg Address)からの引用で、民主主義の本質を簡潔に述べた有名な言葉。1863年11月19日、アメリカ南北線の終わりに近く、北軍の勝利を明白にしたゲティスバーグ会戦のあとにおこなわれた戦死者を葬る国立墓地の開所式でリンカンが行った短い演説、わずか二分間でこの言葉と共に終わった。government に of と by と for を続けた構文が非常に有名だが、これはリンカンの独創ではなく、以前にも数名の政治家によって使われいる。

 リンカンの人間の自由についての名言をもう一つ紹介しておく。

 As I would not be a slave, so I would not be a master. This expresses my idea of democracy.
(私は奴隷になりたくない。だから奴隷を使う身にもなりたくない。これが私の民主主義観を表明するものだ)([15][55][98] [99][141][152]参照)


〔98〕

No man is good enough to govern another man without that other's consent.
                                Abraham Lincoln

 《訳》 相手の承諾なくして他人を統治するほど立派な人間は一人もいない。
                                アブラハム・リンカーン

 リンカーン大統領は民主主義理念の根幹――主権在民――を様々な形で実に平明に言い表わしている。なお、「独立宣言」('the Declaration of Independence,'1776年7月4日には……Governments are instituted among Men, deriving their just powers from the consen of the govered,……(政府は人々の間に設立され、統治される人々の承諾を経て正当な権能を有する)と ある。([15][55[97]][99][141][152]参照


〔99〕

With malice toward none; with charity for all.
                                Abraham Lincoln

 《訳》  何人にも敵意を持たず、あらゆる人に愛を抱いて。
                                アブラハム・リンカーン

 リンカーン大統領の第二回就任式(1864年)演説の最期の一節。「何人にも悪意をもたず、万人に慈愛をいだき」などと訳したのを見かけるが、この charity を「慈愛」とするのは変だと思う。たぶん訳した人の頭には「慈善」という訳語がしみこんでいたのだろう。「慈善」にはどうも相手を見下げたような感じがあって、この場合すわりが悪い。そこで工夫して「慈愛」と書き直したのではなかろうか。しかし、「慈愛」にしてもやはり「見下す」ところがある。思い切って「愛情」にしてもらいたかった。

 聖書のコリンㇳ前書13章は「愛」の尊さを説いた有名な章で、たびたび「愛」が出てくる。欽定英訳聖書(1611年刊行)では charity が使われている。リンカン―が聖書に親しんでいたのは有名な話で、彼はやはり「万人に愛をいだき」とかいたのであ ろう。

 なお、リンカン―の演説は南北に分れて争っていたアメリカ国民の間に恒久平和がもたらされることを念じながら、次の言葉で締め括られている。 with firmness in the right, as God gives us to see the right, let us strive on to finish the work we are in,……(神がわれらに示し給う正義に堅く立ち、われらが手掛けている事業を完成すべく……努力しようではないか) ([15][55[97]][98][99][141][152]参照)


〔100〕

 The workers have nothing to lose in this revolution but their chains. They have a world to gain. Workers of the world, unite.
                               Karl Marx

 《訳》  労働者はこの革命においては鎖以外に失うべきものは何もなく、獲得すべき全世界を有するものだ。万国の労働者よ、 団結せよ。
                               カール・マルクス

 カール・マルクスの有名な『共産党宣言』の最後の言葉である。これを起点として約70年後、ロシア革命が勃発したとき、世界の知識人はマルクス主義者でなくても、これがやがては全人類に明るい未来をもたらしはしないかと注目した。ソビエト連邦の崩壊(1991年12月末解体)した今日、この言葉は一つの広大な史跡を見る思いがする。しかし、これはマルキシズムそのものの敗北ではなく、スターリンの覇権主義と独裁政治の失敗にすぎない、と見る人もあるようだ。([78]参照)

2021.11.28


〔101〕

 When a dog bites a man that is not news, but when a man bites a dog that is news.
                                John B. Bogart

 《訳》  イヌがヒトを咬みついてもニュースにならないが、ヒトがイヌに咬みつけばニュースになる。
                               ジョン・B・ボガート

 ニュースとは何ぞや――それを最も簡潔に説明した有名な言葉、発言者がボガート(1848~1921)はアメリカのジャ~ナリスト、チャールズ・デーナ(Charles A. Dana.1819~97)の言葉とする説もある。

2021.11.10


〔102〕

 Because it is here.
                                George Mallory

 《訳》  なぜなら、それがそこにあるから。
                                ジョージ・マロリー

 この簡単な言葉にどんな背景があるのか、それに気がつかないと面白くも何ともない。アメリカの新聞記者から「なぜエヴェレストに登りたいのですか」と質問されたとき、大登山家マロリー(1887-1924)が答えた言葉である。何とも答えにくい質問だから、とっさにこう返答したのだろう。それが1969年に出版された彼の伝記に引用されて有名になった。のちになって、ちょうど作曲家が作曲するようなもので、登山家はどれほど困難な山でも登らずにいられないものだ、と説明している。そのエベレストで彼は同僚一人と共に消息を絶った。1924年6月のことである。しかしこの言葉が有名になったのは、死後40年もして彼の伝記が出版されてからである。

2008.7.12


〔103〕

I have nothing to offer but blood, toil, years and sweat.
                                Winston Churchill

 《訳》  私が提供できるのはただ血と労力と涙と汗だけだ。
                                ウインストン・チャーチル

 第二次世界大戦のとき、首相としてイギリスを勝利に導いたチャーチル(1874~1965)に、こんな無邪気が伝えられているのは愉快である。ただ無邪気なだけでなく鋭い観察でもある。なるほど、たぶんブタはわれわれを人間と認めるのでなく、単に一種の動物と受け取るだけで、別に尊敬もしなければ軽蔑もしないのだろう。ブタの目には、人間を詳しく観察するに値しない動物にすぎないのかもしれない。([103][104]参照)

 チャーチルが首相として1940年5月13日下院で行った演説の一部。ドイツ軍のベルギー、オランダ侵攻にに際して、チャーチルは連立内閣の首相となり国防相を兼ねた。イギリスを勝利に導こうとする並々ならぬ決意がみなぎっている。([79][104]参照)

2021.11.24


〔104〕

Never in the field of human conflict was so much owed by so many to so few.
                                Winston Churchill

 《訳》  およそ人間同士の闘争の戦場において、かくも多数の人間がかくも少数の人間にかくも大きな恩恵を受けたことは未(いま)だかつてない。
                                 ウインストン・チャーチル

 これは1940年8月20日になされたチャーチルの議会における演説でのとくに有名な一節。遙かに優勢なドイツ空軍のロンドン急襲に対して、劣勢のイギリス空軍が見事に敵を撃退した功績をたたえたもの。 so many はイギリス国民をさし、so few は活躍してイギリス空軍の将兵をさす。この名演説、一般に戦争終結後と思われているが、実は戦争の初期のことで、ドイツ軍の空襲は8月8日から10月31日に及び、とくに9月15日が最悪の日であった。わずか17語の短文だが、英文構成の面白さを十分に味わえる例として、暗誦しておけばいろいろ役にたつ。([79][103]参照)

2021.11.24


〔105〕

Ask not what your country can do for you―― ask what you can do for your country.
                                John F. Kennedy

 《訳》  祖国が君に何をなし得るかでなく、君が祖国に何をなし得るか問い給え。
                                ジョン・F・ケネディ

 ジョン・F・ケネディ(1917~63)の大統領就任演説(1961)の一部。ケネディはアメリカ史上最年少の大統領。理想主義に燃えた「ニュー・フロンティア政策」を打ち出し、国民の支持を得た。アメリカ国内では黒人差別問題を民主的に解決することに努め、外交面では中南米諸国との友好関係を促進し、米ソ対立の解消を図り部分的核実験停止条約を締結したが、道半ばにして、テキサス州ダラスで暗殺者の凶弾に倒れた。

 上の文は「自らの手で国の将来を切り拓(ひら)こう」という趣旨で「ニュー・フロンティア政策」の骨子となるものである。

2021.11.10 特別国会の日


〔106〕

That's one small step for a man, one giat leap for mankind.
                                Neil A. Armstrong

 《訳》  これは個人にとってはささやかな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ。
                                ニール・A・アームストロング

 1969年7月21日、アメリカ宇宙飛行士アームストロング(1930~)が人類として初めて月面に降り立った際の言葉。スプ―トニック号に乗り人類初の宇宙遊泳を行った、旧ソビエト連邦のガガーリン(Yuri A. Gagarin,1934~68)少佐の発言「地球は青かった」とともに、人類の宇宙飛行の夢を駆り立てる名言となった。

2021.11.28 


☆7 文学・芸術の世界☆ P.114~134

〔107〕

Swans sing before they die; 'twere no bad thing
Should certein persond die before they sing.
                                Samuel T. Coleridge

 《訳》  白鳥は死ぬ前にはじめて歌う、というが、
     ある人々は歌う前に死んだ方がいいだろう。
                                サミュエル・T・コールリッジ

 白鳥はギリシャ、ローマの昔から死ぬ前にはじめて美しく歌う、と信じられてきた。このことから swan songとか dying swan  という表現ができたくらいだ。その伝説を引き合いに出して、ヘボ詩人を痛烈に批判した詩句である。([12][16])参照

2021.11.02

〔108〕

I could no more define poetry than a terrier can define a rat.
                                Alfred E. Houseman

 《訳》  私には詩を定義することはできない。テリヤにネズミを定義できないのと同じことだ。
                                アルフレッド・E・ハウスマン

 ハウスマン(1859~1936)は『シュロップシヤーの若者』(A Shrokpshire Lad, 1896)などで20世紀はじめに最も広く愛唱されたイギリスの詩人。詩とは何ぞや、などと定義することは自分にはできない。ただ感動に刺激されて歌うだけだ、という純粋な詩人らしい感想だが、彼はまた優れた古典学者でもあった。 

2021.12.21


〔109〕

Your manuscript is both good and original; but the part that is good is not original, and the part that is original is not good.
                                Samuel Johnson

 《訳》  君の書いた原稿は優秀でもあれば独創的でもある。だが優秀な部分は独創的でないし、独創的な部分は優秀ではない。
                                サミュエル・ジョンソン

 前半では長所を二つあげて褒めているが、後半になるとその長所を二つとも否定する。この筆法のため極めて強烈な批判になっ ている。

 サミュエル・ジョンソン(1709~84)はイギリス18世紀の文豪。詩、劇、評論、伝記等のほか、イギリス最初の学問的国語辞典をほとんど独力で編集した。フランスでは学者を何人も集めて委員会を作り、何年もかかって国語辞典を編集したのだが、ジョンソン博士は助手を四人使うには使ったが、編集そのものはほとんど独力でやり、記憶力の優秀さで人を驚かせた。その上、非常に個性的な定義を与えて評判を取った。完成して出版したとき、二人のインテリ女性が訪問して、「この辞書には下品な単語が入れてなくて結構でございますね」と褒めたところ、「奥さん、探してみましたね」と言われた、という逸話がある。

 作品のうち、今日でも尊重されているのは、この辞書だろうが、彼自身のどの作品よりも重要な価値を持つのは、彼に心ぷくし切った弟子ボズウェル(James Boswell, 1740~95)作の『サミュエル・ジョンソン伝』(The Life of Samuel Johnson,1791)であろう。伝記文学の最大傑作として今なお広く読まれている。([110][131][134]参照)

2021.11.16


〔110〕

No man but a blockhead ever wrote except for money.
                                Samuel Johnson

 《訳》  金もうけ以外の目的で文筆に励んだのは薄鈍(うすのろ)だけだ。→バカでもない限り、金を取らずに物を書く奴があるものか。
                                サミュエル・ジョンソン

 ジョンソン博士は「金儲けを目的に本を書くのは軽蔑すべきことだ」とする風潮を批判して、著者は著作活動の対価として金銭を受け取るべきだと主張してやまない。

 文筆は骨の折れる仕事だ。わが身を削って作り上げた作品が評価されて読者を得て、本が売れてはじめて生計が成り立つ。Every smart writer writes for money.(執筆して金をもうけるのは頭がいい)が、金にもならないものを書いているのは碌でなしだ。へボ作家へ の痛烈な皮肉をユーモラスに言ったもの。([109][131][153]参照)

2021.11.16


〔111〕

Writing free verse is like playing tennis with the net down.
                                Robert Frost

 《訳》  自由詩を書くのはネットの高さを提げてテニスをするようなものだ。
                                ロバート・フロスト

 フロスト(1874~1961)はアメリカの詩人。ニューイングランドの自然と生活を平明な言葉で写実的に、象徴的に描写した。詩の伝統的な壁を離れ、通例脚韻もふまない自由詩はホイットマン(Walt Whitman. 1819-92)以来現代詩に多く見られるが、ここまでは定型詩の持つ一定の制約のもとにいかに詩情を展開させるかに詩人としての力量が問われるのだと言いたいのだろう。フロストは言う。A poem……begins as a lump in the throat, a sense of wrong, a homeesickness, a lovesickness……(喉の痞え、誤謬感覚、郷愁、恋の悩みが詩の始まりだ。……これが思考を生み、今度は、その思索が言葉を生み、今度は、その思索が言葉を生むのだ)

 Publishing a volume of poetry is like dropping a rose petal down the grand Canyon and waiting for the echo.(詩集を出すのはバラの花びらを一枚、グランド・キャニオンの谷底へ落して、そのこだまに耳を澄ましているようなものだ)とアメリカの、ユーモア作家ドン・マーキスは言う。たとえ理解する人が皆無であれ、詩人はその詩心を歌い上げないわけにはいかないのだ。

2021.12.10


〔112〕

If Winter comes, can Spring be far behind ?
                                Perey B. Shelley Hemingway

 《訳》  冬来たりなば、春遠からじ。
                                パーシィ・B・シェリー

 シェリー(1792~1822)はイギリスのロマン派詩人でつねに理想を追い求めていた。鉛色の雲に覆われ、大陸からの季節風が吹きすさぶ冬の到来を春の先駆けとし、春を待ち焦がれるイギリス人全ての思いを[西風に寄せる賦]('Ode to the West Wind,' 1819に歌い上げた。引用はその最後の部分。

2021.12.19


〔113〕

A serious writer is not to be confounded with a solemn writer. A serious writer may be a hawk or a buzzard or even a popinjay, but a solemn writer is always bloody owl.
                                Ernest Hemingway

 《訳》  まじめな作家とまじめくさった作家とを混同してはならない。まじめな作家はタカとかハゲタカあるいはキツツキといったものだが、まじめくさった作家はいつだって残忍なフクロウのままだ。
                                アーネスト・ヘミングウェイ

 ヘミングウェイは(1899~1961)はアメリカのノーベル文学賞作家、「失われた世代」に属し、ハードボイド文学の先駆的な役割を演じた。代表作に『武器よさらば』(A Farewell to Arms, 1929)『老人と海』(The Old Man and the Sea,1952)などがある。                                アーネスト・ヘミングウェイ

 ヘミングウェイは正真正銘作家と似非(えせ)作家の違いを鳥に喩えている。前者の活動ぶり、生命を賭して狩を行う猛禽などに、後者を狭い縄張りで狩を行うフクロウに喩えている。always a bloody owl の表現の中に、「フクロウの奴はいかにも賢そうに振る舞うが実は中身は空っぽだ」と激しい非難を表明している。狩の名手ならではの比喩の使い方だが、もちろんわれこそは正真正銘の作家なり、とのヘミングウェイの自負心がみなぎる発言だ。彼は作品を通じて生と死の極限を描き続けた。愛用の銃を使用して壮絶な死を遂げたが、これは彼の死の美学の現れともいえる。                         

2021.11.15       


〔114〕

In morals, always do as others do; in art, never.
                                Jules Renard

 《訳》  行儀作法は常に他人のするようにせよ。芸術においては絶対にそれはするな。
                                ジュール・ルナ―ル

 ルナール―(Renard,1864~1910)はフランスの小説家、劇作家。芸術の世界では何よりもまず独創を尊べ、と教えた言葉である。ルナールはわが国では小説『にんじん』(Poil de Carotte, 1894)で知られるが、他にも多くの犀利な観察と独自のユーモアと詩情に富む作品を発表した。           

 古来、芸術や学問に対しては独創性を重視する発言は多いが、イギリスの経済学者ミル(John Stuart Mill, 1806~73)の発言は異彩を放つ。All good things which exist are the fruits of originality.(この世の中に存在する優れたものは全て独創性の所産である)                         

2021.12.21      


〔115〕

For me, painting is a way to forget life. It is a cry in the night, a strangled laugh.
                                George Rouault

 《訳》  私にとって絵画は人生を忘却する一つの手段なのだ。闇の中で立てる悲鳴であり、咽喉を絞められて発する笑いなのだ。
                                ジョルジュ・ルオ―

 ルオ―(Rouault,1871~1958)はフランスの画家。自分が絵を描くのは、暗闇の中で悲鳴を立てるようなものであり、咽喉を締めつけられながら笑い声を立てるようなものだ――というのは、彼にとって人生は耐え難い苦痛であったのだ。ルオ―のファンは日本にも多いが、彼の作品の背景にこの悲痛な生活があったとは知らない人が多かろう。                  

 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン, 1850~1904)は己の身を食い潰しても鳴くことを辞めなかった「草雲雀」に藝術魂を投影させた。またシューベルト(Franz Schubert, 1797~1828)の次の言葉、No one can understand the joy or sorrow of others.(他人の喜びや悲しみは誰にも分らないものだ)も感慨深い。                         

2021.11.17       


〔116〕

Don't proceed according to rules and principles, but paint what you observe and feel. Paint generously and unhesitatingly, for it is best not to lose the first impression.
                                Camille Pissarro

 《訳》  規則や主張に従って仕事をするのでなく、自分が観察し感得することを描け。充分にためわらずに描け。第一印象を失わぬことが第一だからだ。
                                カミ―ュ・ピサロ

 ピサロ(Pissarro, 1830~1903)はフランスの印象派の代表的な画家で、風景画の傑作を多く残した。第一印象そのままをキャンバスに再現するのが秘訣であるとは、やはり印象派の信条である。

2021.12.19


〔117〕

Painting from nature is not copying the objective; it is realizing one's sensations.
                                Paul Cezanne

 《訳》  自然に基づいて絵画を描くことは、対象を写生することではない。自分の感情を現実化することである。
                                ポール・セザンヌ

 対象を目に見える通り描くのがわれわれの行き方ではない。われわれは対象を見たときの自分の感動を描くのだ――これは後期 印象派のリーダーとしてのセザンヌ(Cezane,1839~1900)の信念だった。

2021.11.09


〔118〕

I haven't any rules or methods. I look at a nude, I see thousands of tiny tints. I have to try to find ones which will live and make the fresh vibrate in that way on my canvas.                                 Pierre Auguste Renoir

 《訳》  私には規則や方式は一切ない。裸婦を見る。すると幾千もの小さな色合いが見えてくる。その中から、生き続けるもの を探し出し、そのようにして真新しい色調をキャンバスの上に躍動させるのだ。
                                ピエール・オーギュスト・ルノアール

 ルノアール(1841~1919)はフランスの画家。印象派に属し、女性の優美さを豊麗な色彩を駆使して描いた。一見さりげなく描 かれている裸婦像にこれだけの配慮がなされているとは驚きだ。

2021.11.07


〔119〕

In a single brushstroke we can say more than a writer in a volume.                                 Edgar Degas

 《訳》  作家が一巻の書物で言う以上のことをわれわれはたった一筆で表現できる。
                                エドガー・ドガ

 ドガ(1834~1917)はフランスの画家。すぐれたデッサンの能力によって日本の浮世絵に学んだ大胆な構図の傑作が多い。こうしてみると、ドガのあの傑作、躍動感あふれる踊り子像は、彼が全身全霊を込めた一筆一筆の結晶であることが実感できる。ドガの並々ならぬ自信のほどがうかがえる発言である。

2021.12.09


〔120〕

There are two very difficult things in the world. One is to make a name for oneself and other is to keep it.                                 Robert Schumann

 《訳》  この世には実に困難なことが二つある。一つは名声をあげること、あとの一つはそれを維持すること。
                                ロベルと・シューマン

 シューマン(1810~56)はドイツの作曲家。ピアニストとして立つつもりのところ、指に負傷したため中途から作曲家に転向した。また晩年には神経症が高じて自殺を計ったりした。そんな事情がこの言葉に反映しているかもしれない。

2021.11.28


〔121〕

One can't judge Wagner's opera Lohengrin after a first hearing, and I certainly don't intend hearing it a second time.
                                Gioacchino Rossini

 《訳》  ワグナーのオペラ『ローエングリン』は一ぺん聴いただけだから批評できない。もう一ぺん聴く気は全くないが。
                                ジョアキーノ・ロッシーニ

 ロッシーニ(1792~1868)はイタリアの作曲家。オペラ『セビーリアの理髪師』(1816)が代表作。彼は旋律の美しさを心掛けていただけに、過度のドラマ性や感情の発露を嫌ったに違いない。それに対してワグナー(1813~83)は、既成オペラの伝統を徹底的にぶち毀し、そのオペラにドイツ・ロマン派民族主義の精華といわれるプロットを使い、巨大なオーケストラによる新形式の音楽を創始し、「樂劇」と称していた。

2021.11.19


〔122〕

An opera is a form of entertainment where there's always too much singing.
                                Claude Debussy

 《訳》  オペラは楽しみの一つの形式だが、歌唱が度を過ぎていけない。 
                                クロード・ドビュッシ―

 ドビュッシ―(1862~1918)はフランスの作曲家。象徴派詩人や印象派画家の影響を受け、欧米のロマン派音楽の域を脱し、感覚的な印象や夢幻的な気分の表出につとめた。オペラの醍醐味は役者の演技もさることながら、やはり歌手たちの朗々とした歌唱であろう。だが、ドビュッシ―はこの特色が過剰になることを実にユーモラスに批判している。

2021.12.21


〔123〕

I don't want anyone to admire may pants in a museum.
                                Frédéric Chopin

 《訳》  博物館の中でパンツを誉めそやされるなんてご免こうむる。 
                                フレデリック・ショパン

 ショパン(Chopin,1810~49)はポーランド生まれのロマン派作曲家、ピアニスト。「ピアノの詩人」と言われるほどの豊かな表現力を持ちあわせた。自分の死後博物館が出来て、胸像やら、所持品やら、およそ芸術に関係のない物までがちやほやされるのはご免こうむる。芸術家の評価はその作品次第だというのだ。

2021.11.28  


〔124〕

I don't know anything about music. In my line you don't have to.
                                Elvis Presley

 《訳》  ぼくは音楽なんてさっぱりわからない。ぼくの商売では知らなくていいんだ。
                                エルヴィス・プレスリー

 人気の高い歌手なら音楽など知らなくてもすむ。とは痛快な発言だが、まさか本当にプレスリー(1935~77)がこう公言しているのではあるまい。死後十年たっても、まだどこかに生きている噂が絶えない人物である。こんな途方もない言葉も伝えられているのだろう。

2021.11.18


〔125〕

The doctor can bury his mistakes, but the architect can only advise his client to plant vines.
                                Frank I. Wright

 《訳》  医者は(治療に失敗して)死なれた患者を埋葬してしまえるが、建築家は建築主にすすめてツル草をうえさせることしかできらい。
                                フランク・I・ライト

 ツルが伸びて生い茂るキズタなどをうえるのは、失敗作の建築をかくすためである。一読してなるほどと思いやすいが、このたとえなんとなくユーモラスである。比較の対象に医師を持ち出したことはいささか突飛とも思えるが、そんなことは承知の上でユーモアを飛ばした言葉である。 

 ライと(Wright, 1869-1959)はアメリカの建築家。大正時代に日本で活躍した。建築美の粋を集めた旧帝国ホテルは彼の代表作の一つ。([126]参照)

2021.12.05


〔126〕

We should learn from the snail: it has devised a home that is both exquisite and functional.
                                Frank I. Wright

 《訳》  われわれはカタツムㇼを模範とすべきだ。カタツムリは極めて優秀でもあり同時に機能的な住居を開発している。
                                フランク・I・ライト

 建築家の目から見ればカタツムリの殻は、なるほど機能的な上に芸術的な完成美をも備えている。今度行き会ったらライトの言葉を思い出してよく観察してみよう。([125]参照)

2021.12.05


〔127〕

Acting is the most minor of gifts and not a very high-class way to earn a living. After all, Shirley Temple could do it at the age of four.
                                Katherine Hepburn

 《訳》  劇を演じるのは(生れつきの)才能の中でも最も小さいもので、あまり高級な暮しの立て方でもありません。なんと言ってもシャ―リ―・テムプルは四歳のときそれがやれたのですから。
                                キャサリーン・ヘップバーン

 俳優も芸術家の一人に数えられているが、あまり高級なものではないと見る人もある。この言葉は発言者キャサリーン・ヘップバーン(1907-2003)自身がが名女優だけに鋭く聞こえる。シャ―リ―・テムプル(1928-2014)は第二次大戦前のアメリカの天才少女俳優で可憐な姿で歌い踊り、世界的なアイドルとなった。戦後は舞台から引退して外交官となり、国連やガーナ大使、旧ユーゴスラビア大使などとして活躍した。

2021.12.11


☆8 仕事と趣味☆ P.135~148
〔128〕

If a man write a better book, preach a better sermon, or make a better mousetrap than his neighbor, though he build his house in the woods, the world will make a beaten path to his door.
                                 Ralph W. Emerson

 《訳》  もしも人が隣人よりすぐれた本を著すとか、立派な説教をするとか、上等なネズミ捕りをこしらえるとかすれば、たとえ森の奥に住んでいようとも、世間の人々はその戸口へ大勢集まって来るだろう。
                                 ラルフ・W・エマソン

 精神的な仕事だろうが小道具などを作る仕事だろうが、普通より仕事をすれば、どんなところに住んでいようとも、世間の人がつぎつぎと訪れて来て、そのは繁盛する、との教訓である。

 大思想家エマソンの講演の一部。筆記しおいた人があって有名になった。preach a better sermon 「より優れた説教をする」 は牧師などになること、make a mousetrap 「ネズミ捕りを作る」は簡単な手仕事の代表としてネズミ捕りを出しただけ。ンネズミ捕りとは平凡な日用品の一例のつもりだろうが、今から思うと妙な品を持ち出したものだが、エマソンの時代のアメリカでは必需品だっただろう。ここで使われたおかげで今でもよく用いられる。例えばアガサ・クリスティの劇The usetrapは1952年以来、超ロングランを続けた。

 エマソンは The shoemaker makes a good shoe because he makes nothing else.(靴屋が良い靴を作るのは他に何も作らないからだ)と、職人気質の一徹さが優れた作品を生み出すと評してもいる。[32][59][68]参照)     

2021.11.18


〔129〕

He who can, does. He who cannot, teaches.
                                George B. Shaw

《訳》  できる者はやる。できない者は教える。
                               ジュ―ジ・B・ショー

 ショーは無遠慮な悪罵を浴びせるので有名だ。中でもこの言葉は特に有名である。教師を職業とする者には不愉快きわまる 言葉だ。

 そう言えば、オスカー・ワイルド(Oscar Wilde, 1854-1900)にもこんな皮肉な発言がある。Everybody who is incapable of learning has taken to teaching(学ぶことのできない輩が皆教えことを手掛けてきた)とかく教師は聖職者と共に批判の対象になり易い。

ショ―の辛辣な発言をもう一つ挙げておく。Democracy substitutes election by incompetent many for appointment by the corrupt few.(民主主義とは、腐敗した少数による任命制度を無能な多数 による選挙に置き換えたものだ)民主主義の衆偶政治と言って憚らない。        

 これと反対に教職を褒め立てた言葉に有名なのは少ないようだ。その珍しい例を次に紹介しておく。([9][67]参照)

2021.12.03


〔130〕

A teacher affects eternity : he can never tell where his influence stops.
                                Henry Adams

 《訳》  教師は永久にわたって影響を及ぼす。どこまで影響を及ぼすか、教師には分からない。
                                ヘンリー・アダムズ

 ヘンリー・アダムズ(1838~1918)はアメリカの史学家、教育家。自伝『ヘンリー・アダムズの教育』(The Education of Henry Adams, 1907 )が有名である。最高の教育を受けながら、みずからそれを失敗と認めた。
*アインシュタインの次の発言も意味深長だ。It is the supreme art of teacher to awaken joy in creative expression and knowledge. (創造的な表現や知識に喜びを目ざめさせる――これが教師の最高の技術である。)これはカリフォニア洲パサデナにある、ジュニア・カレジ(短期大学)の天文学研究所の標語となっている。

2008.7.29


〔131〕

There are few ways in which a man can be more innocently employed than in getting money.
                                Samuel Johnson

 《訳》  金もうけ以上に一心に従事できる事はほとんどない。
                                サミュエル・ジョンソン

 ジョンソン博士に私淑したジェムズ・ボズウェルの『サミュエル・ジョンソン伝』からの引用、他にジョンソンの警句を2、3示 すと、 No man is a hypocrite in his pleasures,(道楽をする上で偽善者はいない)Money and time are the heaviest burdens of life, and ...the unhappiest of all mortals are those who have more of either than they know how to use.(お金と時間 はこの世の重荷の最たるものだ。……使い道がわからないほどこの二つを持ち合せている輩が一番の不幸者だ)

 そういえばバーナード・ショ―の発言にも There is no love sincerer than the love of food.(食べ物をこよなく愛するほど 無欲な愛は他にはない)とあるが、このご馳走を一心に食べている人はこの境地に浸っているのかもしれない。([109][116][153] 参照)

2021.11.23


〔132〕

Nothing is really work unless you would rather be doing something else.
                                James M. Barrie

 《訳》  できれば何か別のことをやってみたいと思うくらいでなければ、本当の仕事とは言えない。 
                                ジェームズ・M・バリー

 バリーはエディンバラ大学卒業後しばらくジャーナリストとして活躍。その後ロンドンに出て文筆活動を始めた。最初は軽い気持ちで自伝的な小説を書いたが、やがて本格的な小説家、劇作家となった。当初は気楽な稼業であったにしても、生活を支える糧となると話は別だ。人間心理をうまく言い当てたものだ。([1][168]参照)


〔133〕

Angling may be said to be so like the mathematics that it can never be fully learnt.
                                Izaak Walton

 《訳》  釣りは数学と極めて似ていると言ってよいだろう。だから完璧に習得することはできない。 
                                アイザック・ウォルトン

 ウォルトン(1593~1683)はイギリスの作家で、魚釣りと田園生活を精緻に描いた『釣魚大全』(The Compleat Angler, 1653)の著者として有名。釣りと数学といった一見まったく無関係な言葉を並べ、意表をつくことで関心をひきつけるやり方。

2021.12.18


〔134〕

The great pleasure in life is doing what people say you cannot do.
                                Walter Bagehot

 《訳》  できるわけないだろうと人から言われることをやってのける、これこそ人生醍醐味だ。
                                ウォルター・バジョット

 バジョット(Bagehot,1826~77)はイギリスの経済学者、政治評論家、経済紙(Economist)の編集者、他人の中傷を発憤材料とし、孤軍奮闘して、功成って見返す――これほど痛快なことはまずないだろう、しかし、失敗して負け惜しみを言う人も中にはいるだろう。

2021.12.19


〔135〕

That man is the richest whose pleasures are the cheapest.
                                Henry D. Thoreau

 《訳》  楽しみがいちばん安上がりな人がいちばんの金持ちだ。
                                ヘンリー・D・ソロー

 ソローは金権社会での豪奢な生活より、自然を友とする精神的な満足感の得られる生活こそ最高の生活だと主張した。彼はウォ ールデン湖畔の森の中で理想とする生活を実践した。([11]参照)

2021.11.17


〔136〕

Few among those who go to a restaurant realize that the man who first opened one must have been a man of genius and a profound observer.
                                Brillat-Savarin

 《訳》  レストランへ行く人々のうち、最初にレストランを開いたものは深い観察力を持つ天才ある人だったに違いない、と理解している者はほとんどいない。
                                ブリーア=サヴァラン   

 ブリーア=サヴァラン(Brillat-Savarin, 1775-1826)はフランスの政治家で食通として有名。フランス大革命のときスイスに逃れ、のちアメリカに渡って著作した。彼の言葉はすべて美食趣味を鼓吹するものと考えてよい。([137]参照)

2021.12.06


〔137〕

The discovery of a new dish does more for the happiness of mankind than the discovery of a star.
                                Brillat-Savarin

 《訳》  新しい料理一種類を発見する者は星一個の発見よりも人類の幸福に貢献するところ多し。
                                ブリーア=サヴァラン   

 ブリーア=サヴァラン『美食学』(The Physiology of Taste, 1825)の中で、料理法や美食に関する実に楽しいエピソードを多数紹介している。([136]参照)

2021.12.06


〔138〕

He was a very valiant man who first adventured on eating oysters.
                                Thomas Fuller

 《訳》  思い切って最初にカキを食べてみた人は、実に勇敢な人物であった。
                                トマス・フラー   

 トマス・フラー(1608~61)はイギリスの聖職者、歴史家、ユーモア作家。彼には次の警句もある。A fool's paradise is a wise man's hell!(愚か者にとっての天国は賢い人には地獄だ!) 普通 a fool's paradise は[ぬか喜び]であるが、ここでは本来の意味、賢い人にはこの世の中はさぞかし住みにくいだろう。なにしろ愚か者が大勢(たいせい)を占めて、主導権を握っているのだから。

2021.12.16


〔139〕

Why so many different dishes ? Man sinks almost to the level of an animal when eating becomes his chief pleasure.
                                Ludwig van Beethoven

 《訳》  なぜこんなにもさまざまな料理があるのだろう? もし食べることが人間のおもな楽しみになったなら、人間はほとん ど獣のレベルに下落してしまうだろう。
                                ルートヴイッヒ・ファン・ベートーヴェン

 ベートンーヴェン(Beethoven[beithouvn]1770~1827)はドイツ人だから、この言葉はもちろん翻訳でる。人間がもし第 五シンフォニーを聴くよりもステーキを食べたがるようになったら、人間はケダモノのレベルに落ちるだろう。精神的な楽しみを尊重するのが人間性の本質だ。動物的な欲望ばかり楽しみにしてはいけない。

2021.11.18


〔140〕

In England there are sixty different religions but one sauce.
                                Voltaire

 《訳》  イギリスには六十もの異なる宗教があるのに、ソースはたった一つだけだ。
                                ヴォルテール

 ヴォルテールはフランスの啓蒙時代を象徴する哲学者、作家。不正や忍耐力の欠如を攻撃した。イギリス人はこと宗教について はあれほど不寛容(intolerant)なのに、食べ物については全く寛大な(tolerant)ことに驚きあきれている発言。美食家のフラ ンス人はイギリス料理にはさほど多様性を認めないのだろう。 

 ソースについては次のようなことわざがある。Hunger is the best sauce.(空腹に勝る調味料なし)([28][93]参照)

2021.11.18


☆9 仕事と趣味☆ P.149~159

〔141〕

All that I am or hope to be, I owe to my angel mother.
                                Abraham Lincoln

 《訳》  私の現在もまた将来も、全て天使のようなわが母のおかげである。
                                アブラハム・リンカーン

 全てを母の恩と見る人は珍しくなかろうが、リンカーンの場合、この母は実母でなく継母である。継母の手で育てられつつ、丸 太小屋からホワイトハウスまで成長し、しかもこの言葉を残したことは、母に取っても子に取っても世界の歴史できわめてまれな ことであった。 

 一方、イギリスの作家モームは献身的な親の愛情が子供に伝わらないもどかしさを次のように慨嘆する。Unselfish parents have selfish children. It is not children's fault. It is natural they should accept the sacrifices their parents make for them as their right; and how should they know that in this world you get nothing for nothing?(子供思いな親に自分のことしか考えない子ができる。それは子供のつみではない。親が子のために払う犠牲を、子が当然の権利のように受け入れるの は、自然である。この世の中にはただで手に入るものなど何もないことを、どうして彼らにわかるだろか)「親の心、子知らず」は今に始まったことではなそうである。([15][55][97][98][99][152]参照)

2021.11.18


〔142〕

Every man is a poet when he is in love.
                                Plato

 《訳》  恋をしているとき人は誰でも詩人である。
                                プラトン

 これは古代ギリシャの大哲学者プラトン(427?~347? B.C.)の言葉といわれている。「詩人である」とは「現実を直視しな い勝手な夢想にふけっている」ことであるか、「現実の彼方に永遠の美を発見している」のだか、プラトンの原典を読まない現代人には解釈があいまいである。

 筆者がニューヨークの場末の小さな食堂に入っていったとき、主人らしい男が「プラトーン!」と大声を上げたら、ドアの向うからコックらしい禿げ頭が顔を出した。どうやらプラトーンは大哲学者の名前だけでなく、ギリシャ人なら珍しくない苗字らしいな、と気がついたことがある。

2021.11.26


〔143〕

Love's like the measles――all the worse when it comes late in life.
                                Douglas Jerrold

 《訳》  恋愛はハシカに似ている――年を取ってかかるほど病気が重い。
                                ダグラス・ジェラルド

 この言葉は、イギリスでは100年以上も前から有名だが、日本では大正の頃、ある小説家がはじめて言い出したような顔で引用してから有名になった。今でもそう思い込んでいる人もあるらしい。ジェラルド(Jerrold, 1803-57)はイギリスの劇作家。ユーモリストであった。ジャーナリストとしても活躍し、『パンチ』(Punch)誌に多くの寄稿をしている。

 イギリスの作家ジェローム・K・ジェッローム(Jerome K. Jerome, 1859-1927)はこの発言を更に発展させた。Love is like the measles; we all have to go through it. Also like the measles, we take it only once.(恋愛はハシカに似て一度しか罹らない)だが、恋の病が再発して恋いの虜になる患者が跡を絶たない。

2021.12.11


〔144〕

He that hath a wife and children hath given hostage to fortune.
                                Francis Bacon

 《訳》  妻子を有する者は運命に人質を渡せるなり。
                                フランシス・ベーコン

 家族を有するものは、何か重大な目的があっても、一切を犠牲にして目的へ邁進できない。つまり運命に妻子を人質に取られているからだ。昔の日本にも、西行法師などのように、全身全霊を挙げて仏門に帰依するため妻子を捨てた例がある。

 フランシス・ベーコン(1561~1626)はイギリスの大政治家、哲学者、随筆家、シェクスピアと同時代に活躍した。彼の名言 Knowledge is power.(知は力なり)は人口に膾炙している。かつてシェクスピアその人は実在せず、ベーコンが偽名で書いたのだろう、とする論者もいた。([44]参照)

2021.11.09


〔145〕
True love is like a ghost: everybody talks about it but few have seen it.
                                La Rochefoucauld

《訳》  本物の愛とは幽霊のようなものだ。だれしも話題にするが見た人はほとんどいない。
                                ラ・ロシュフーコー

 フランソワ・ド・ラ・ロシュフーコー(Francois de La Rochefoucauld, 1613-1680)はフランスの作家。『箴言録』 (Maximes,、1665)でよく知られ、警句や格言を多く残した。

2021.11.28


〔146〕
Martrimony――the high sea for which no compass has yet been invented
                                Heinrich Heine

 《訳》  結婚――そのための羅針盤がまだ発見されていない公海
                                ハイリッヒ・ハイネ

 ハイネはドイツの詩人、批評家。後半生はドイツを離れてパリで暮し、世界的な詩人となった。わが国でも明治以来多くの文学 者が影響を受け、彼の詩の愛好者は多い。([2]参照)

2021.11.27


〔147〕

 Love is like war: easy to begin but very hard to stop.
                                Henry I. Mencken

 《訳》  恋愛は戦争のようなものだ。始めるのは簡単だが、止めるのは至難のわざだ。
                                ヘンリー・メンケン

 メンケンはアメリカ文化全般に対して舌鋒鋭い批判を行ったジャーナリストとして知られているが、特に1924年に『アメリカン ・マーキュリー』誌を創刊、編集して約10年にわたって辛辣な論陣を張った。いったん恋の虜になったら大変だ。白旗を掲げて相 手の軍門に降るくらいの覚悟が必要だ。([41][69]参照)

2021.11.30


〔148〕

By all means marry: if you get a good wife, you'll become happy: if you get a bad one, you'll become a philosopher.
                                Socrates

 《訳》  ぜひとも結婚し給え。良い奥さんをもらったら、幸せになる。ひどい奥さんをもらったら、哲学者になるさ。
                                ソクラテ

 ソクラテス(470?~399?B.C.)はギリシャの哲学者。彼の妻クサンティツペ(Xanthippe)は口やかましく、嫉妬深い悪妻の典型とされた。結婚を勧めるのに、たとえ貧乏籤を引いたとしても私みたいな哲学者になれるとは、ユーモラスな、しかし、現実を見据えた忠告ではないか。

2021.11.17


〔149〕

There is no spectacle on earth more appealing than that of a beautiful woman in the act of cooking dinner for someone she loves.
                                Thomas Wolfe

 《訳》  美しい女性が愛する人のために食事の支度をしている光景ほど、人の心を打つものはこの世の中に外にあるまい。
                                トーマス・ウルフ

 トマス・ウルフ(1903~38)は「天使よ故郷を見よ」(Look Homeward, Angel, 1929)で知られるアメリカの作家。女性が愛する人のためにかいがいしく食事の準備をしている光景は掛け値無く素晴らしい。男性が女性に献身的な愛情を求めるのは何時の世にも変わりはあるまい。

 アメリカ人の画家ロックウェルス(Norman Rockwell,1894~1978)もこうした日常の世界を好んで描いて古き良き時代への郷愁 をそそったものだ。

2021.11.17


〔150〕

Tis better to have loved and lost than never to have lost at all
                                Samuel Butler

 《訳》  全然失恋したことがないよりは恋をして敗れた方がましだ。
                                サミュエル・バトラー

 イギリスの詩人テニソン(1809~92)の視『イン・メモリアム』(In Memoriam, 1850)の中の Tis better to have loved and lost than never to have loved at all.(愛して失うは愛せしことなきにまさる)をもじったもの。現在では失恋した者の負け惜しみととれる金言となっている。([74][161][162]参照)

2021.11.23


〔151〕

A man and a woman marry because both of them don't know what to do with themselves.
                              Anton Chekhov

 《訳》  男も女も自分のことをどうしていいかわからないから結婚するのだ。
                                アントン・チェホフ

 チェホフ(1860~1904)はロシアの短編作家。劇作家。叙情豊かな短編を書いた。また、人間の微妙な心理の動きを描写した新しい戯曲を書いたことでも知られる。

 結婚の定義にはいろいろあるが、お互い自分のことがわからないから結婚する。実に明快だ。二人そろえば知力も倍加される というもの、When the blind lead the blind, no wonder they both fall into――matrimony.(盲人が盲人を導けば、二人は晴れて結婚に陥る。これは当然の理(ことわり)なり)アイルランドの劇作家ファーカー(George Faruquar,1678~1707)のユーモラスな定義も共通点が見出される。

2021.11.19


☆10 ユモーアとジョーク☆ P.160~191

〔152〕

God must have loved the plain people; He made so many of them.
                                Abraham Lincoln

 《訳》  神様はぶ器量な人間が好きだったからに違いない。実に大勢こしらえたから。
                                アブラハム・リンカーン

 これを読んだだけではユーモアをまるで感じない人もあっただろうが、この言葉がリンカーン大統領の発言であり、そのリンカーン自身が非常に不器量な男だったことを頭に置くと、このユーモアが分ってくるだろう。 

 彼のぶ器量さは非常に有名で、たとえばリンカーンの容貌は weathered face was homely as a plowed field(風雨にさらされた彼の顔は、耕された畑のように醜かった)と書いた詩人ベネ(Stephen Vincent Benét)もいるくらいだ。この場合の homely はugly の意味。loosely-jointed(つながりかたが不確か)と書いた伝記もある。まずいのは容貌だけではなかった。

 ただし首都ワシントンのポトマック河畔にあるリンカーン記念堂(Lincoln Memorial)にある壮大なリンカーの座像を見ると、堂々とした威厳のある風貌で国会議事堂(Capitol)を看視している。醜い顔つきとは誰も思わないだろう。そのリンカーンそのひとがまだ生きていたとき、こんなジョ―クを飛ばしていたのだ。[15][55][97][98][99][141]参照)

2021.11.21


〔153〕

A fishing-rod is a stick with a hook at the end and a fool at the other.
                                Samuel Johnson

 《訳》  釣竿とは一方の端に釣り針が、あと一方の端にはバカ者のついた棒のことだ。
                                サミュエル・ジョンソン

 この文章は形式の上では、「釣竿」の定義だが、実は釣竿を説明するわけではない。「釣りなどする奴はバカ者だ」というところを、悪口の形ではなく、まじめに釣竿を定義する形で述べたもの。目的はユーモアである。([109][110][131]参照)

2021.11.16


〔154〕

The fence around a cemetery is foolish, for those inside can't come out and those outside don't want to get in.
                                Arthur Brisbane

 《訳》  墓地をかこむ垣は馬鹿げたものだ。中にいいる人たちは出て来られないい、外にいる連中は中へ入りたがらないから。
                                アーサー・ブリスベイン

 軽快なジョークである。もし日本語で言われたら誰も即座に笑いを浮かべるだろう。英語で言われたらどうか。すぐ笑えるにはすぐ理解しなくてはならない。その点、よく味わっておく必要がある。これは語学の問題ではなく、常識の問題だ。

 ブリスベン(1864~1936)はアメリカの新聞編集者。煽情的ジャーナリズムの手法の開発を促しこれを実践し、販売拡大を画策した。

2021.12.20


〔155〕

An archeologist is the best husband any woman can have; the older she gets, the more interested he is in her.
                                Agatha Christie

 《訳》  どんな女性にしろ考古学者よりも優秀な夫は持てない。こちらが年を取れば取るほど、いよいよ深く興味をもってくれるから。
                                アガサ・クリスティ

 [ミステリー界の女王]として今もなお読み続けられるクリスティ(1891-1976)が再婚したとき、なぜ考古学者(archeologist)と? の質問に対する返事といわれている。彼女の二番目の夫マロアン(Sir Max Mallowan, 1904-78)は著名な考古学者であった。その後の彼女の創作活動においての夫の果たした役割は実に大きい。 

 彼女の『自伝』(An Autobiography, 1977)には、再婚を決意する迄の葛藤が真摯に語られている。[私の良き人生、私が授かったあらゆる愛情に対し、神に感謝します]。『自伝』は75歳に達したクリスティのこの言葉で終るが、機知とユーモアを持ち、意欲にあふれ、円満な人格を備えたクリスティ女史の人生賛歌といえる。

2021.12.06


〔156〕

 Let us be thankful fot the fools; but for them the rest of us could not succeed.
                                Mark Twain

 《訳》  ばか者に感謝しようではないか。もしばか者がいなかったら、われわれほかの者はとても成功できないだろう。
                                マーク・トウェイン

 いきなり「バカに感謝しようよ」と切り出して人をおどろかす。そのあと、「バカがいるおかげでおれ達うまくやれるのだ」と説明されると、なるほどと思わざるを得ない。 

 この文、前半は意外なことを持ち出して人を驚かし、後半でその種明かしをする組み立て、この構文の妙を味わうべし。作者マーク・トウェインにはこの種の皮肉な言葉がよくある。([39][50][51][66][157][174][176]参照)

2021.11.22


〔157〕

Life would be infinitely happier if we could only be born at the age of eighty and gradually approach eighteen.
                                Mark Twain

 《訳》  もし80歳のとき生まれて次第に18歳に近づくことさえできたら、人生は今よりも限りなく幸福になるだろう。
                                マーク・ㇳウェイン

 80歳で生まれるとは、「人生の経験をいろいろ経験したあとで」を意味する。それだけの知識や経験をもって生まれてくれば、ばからしい誤りは犯さずにすむはずである。

 途方もない空想を描いて人を笑わせる文章。さすがに「トム・ソーヤの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」の作家だけある。しかもこの冗談は人を笑わせるばかりでない。裏には教訓が潜んでいるではないか。

 どちらも面白く読ませる少年小説の形を取っているが、特に後者は、「初めて生まれたアメリカの小説」とまで激賞する批評家もあって、有名な作家ヘミングウェイなどは、「われわれは皆ㇵック・フィンの子供だ」とまで言っている。俗語や各地の方言をさかんに使っているから、決して読みやすい作品ではない。しかし、苦労して勉強する価値のある名作である。([39][50] [51][66][174][176]参照)

2017.3.4


〔158〕
What animal goes on four legs in the morning, two at noon, and three in the evening ?

                                The Riddle of Sphins

 《訳》  朝は四本足で歩き、昼は二本足で歩き、晩は三本足で歩く動物は何?
                                スフィンクスの謎

 これはギリシャ神話にある有名なスフィンクスの謎である。ナイル川上流にあったテーベ国にスフィンクスという怪物が住んでいた。人に出会うと謎をかけて解けないと取って食べてしまう。もしも謎を解かれると怪物は死ぬ、との神託があった。やがて英雄エディプス(Oedipus)が現われて、その謎を解き、スフィンクスは死んで、テーベの人々は助かる。人間は幼いときは両手を使って這い、老人になると杖を頼りに歩くから。

2021.11.08


〔159〕

 She laughs at everything you say. Why ? Because she has fine teeth.
                                Benjamin Franklin

 《訳》  彼女は君が何と言っても笑う。なぜだろう。美しい歯をしているからさ。
                                ベンジャミン・フランクリン

 フランクリンはきわめて現実的で、バランス感覚のとれた人であった。その生涯の活躍ぶりはアメリカ人の典型といわれる。 

 君はいつも無味乾燥なことばかりしゃべる。だから、いつも彼女から「一笑に付さ」れるのだ、と思いきや、彼女はきれいな歯を見せびらかすためだ。彼女は美貌の証に笑っているにすぎない。どんで返しのユーモア。Because 以下が文頭に来たら、興ざめとなる。

 ちなみに、英語には、次のような「歯」にちなんだことわざがある。 Never look a gift horse in mouth.(贈り物にけちをつけるな)――人から贈られた馬の口を無理矢理開けて、馬の年齢や健康状況などを品定めしたところから。([18][61]参照) 

2021.11.22


〔160〕

What's more enchanting than the voices of young people, when you can't hear what they say ?
                                Logan P. Smith

 《訳》  若い元気な連中が話し合っているのを聞くといい気持になるものだ。ただし、言っている文句が解らないときだけだ。
                                ローガン・P・スミス

 スミスには、老人の気概に意気投合する発言がある。The denunciation of the young is a necessary part of the hygiene of older people, and greatly assists the circulation of their blood.(若者をやっつけるのは年寄の精神衛生上欠かせない。そ れに、血の巡りを大いに助けてくれる)([13])

2021.12.03


〔161〕

Two are better than one, but the man who said that did not know my sisters.
                                Samuel Butler

 《訳》  二人は一人にまさる、という[ことわざがある]が、そう言った人は私の二人の姉妹を知らなかったのだ。
                                サミュエル・バトラー

 「二つの頭は一つの頭にまさる」ということわざを文字通り解釈して、「私には姉妹が二人もあって、いつもひどい目に会わされる。もし一人きりだったら少しは助かっただろうに」が、真意。

 ことわざを最初に持ち出したので、皮肉な言葉になったところを味わう必要がある。([74][150][162]参照)

2021.11.08


〔162〕

If God considered woman a helpmate for man, he must have had a very poor opinion of man.
                                Samuel Butler

 《訳》  もしも神が女性を男性の協力者と考えたとすれば、神は男性をすごく低く見ていたにちがいない。
                                サミュエル・バトラー

 旧訳聖書の創世記に、神はアダムの肋骨からイブをこしらえ、協力者としたと記されている。女性がいなければ何もできないとはずいぶん小ばかにされたものだ。憤懣やるかたないと啖呵を切ってはいるものの、その実、内心は女性がいなければ何もできそうにもない。大袈裟に言った分だけユーモアがある。([74][150][161]参照)

2021.11.23


〔163〕

It goes far toward reconciling me to being a woman when I reflect that I am thus in no danger of marrying one.
                                Mary W. Montage

 《訳》  私は女であるから女と結婚する危険はない――そう思うと、自分が女であることに大いにあきらめがつく。
                                マリー・W・モンタギュー

 マリー・モンタギュー(1689~1762)はイギリスの作家。トルコ大使の夫と任地に滞在中に、中東での生活ぶりをユーモラスに綴った書簡文で知られる。また、天然痘の種痘法をイギリスに紹介した人物。 

 それにしても女性としての見栄や外聞を一切投げ捨てて、女性の弱点をよくもここまで単刀直入に言えたものだ。同性ならではの観察だ。

 同じように同性での立場から女性観をスタール夫人は次のように表現している。I'm glad I'm not a man, for if I were I'd be obliged to marry a woman.(私は男でなくてよかったと思う。もし男だったら女と結婚しなければならないから)

2021.11.23


〔164〕

Here's to woman ! Would that we could fall into her arms without falling into her hands.
                                Ambrose Bierce

 《訳》  さあ、女性に乾杯しよう! 願わくは彼女の手中に落ちることなく、彼女の腕に抱かれますように。
                                アンブローズ・ビアス

 いくら気張っても、結婚後の行く末は次のようであろう。Marriage: The state or condition of a community consisting of a master, a ministress and two slaves, making in all, two.(結婚――一人の主人、一人の女主人と二人の奴隷から成立し、合計で二人の集合体の状態ないしは状況)一方が他方を支配しているように見えても、所詮、夫婦は隷属し合うもの――それが結婚さ。

 ピアスを日本に最初に紹介したのは芥川龍之介であった。映画『羅生門』にも使われた名作「藪の中」が、ピアス「月明かりの道」(The Moolit Road')の構成を学んでいるのは有名だが、ピアスとちがって、「藪の中」が単なる怪談ばなしどころの作品でないことは、日本文学の光栄の一つである。(『この多彩な英語』P.51,[76][170]参照)

2021.11.19


〔165〕

Nature has hardly formed a woman ugly enough to be insensible to flattery upon her person.
                                The Earl of Chesterfield Arlen

 《訳》  自然は姿かたちをほめそやされても全く感じないほど醜い女性を生んだことはほとんどない。
                                チェスタ―フィールド卿

 チェスタ―フィールド卿(1694~1773)はギリス政治家、著述家。女性は外見がどうであろうと、誰でも美人であるとのプライドを持つ――男性の場合はいったい何に対してプライドを持っているのであろうか。

 チェスタ―フィールドは女性からではなく思わぬ方向からしっぺい返しを食らった。それはジョンソン博士が編纂していた辞書にまつわる有名な逸話に関するものである。ジョンソン博士は、当時の習慣に従って、文学や芸術の有力なパトロンであったチェスタ―フィールド卿に彼の辞書を献呈して庇護を受けようとした。しかし、何年も冷遇されたあげく、ようやく完成近くになってから推薦文が送られて来た。腹を立てて書いたチェスタ―フィールド卿宛のジョンソン博士の手紙が、皮肉にも有名な古典として文学史などに引用されることとなった。

 [人がおぼれかかっている時は冷淡に傍観し、ようやく岸にたどり着くと助けの手をさしのべて邪魔建立てする――閣下、これがいわゆる後援者なるものではございますまいか](『英語プロムナード』p.120~121参照)

2021.12.19


〔166〕

It is amazing how nice people are to you when they know you are going away.
                                Michel Arlen

 《訳》  実に驚くなあ。いなくなると分ると人がとても優しくなるのには。
                                マイケル・アーリン

 アーㇼン(Arlen, 1895~1956)はアルメニア生れで、のちにイギリスに帰化した小説家、劇作家。ロンドンの社交界を描いた小説で知られる。

 別れには[甘美な憂愁](such sweet sorrow)が伴い、人は皆、寛大な人物に変身するのだろう。児童文学の傑作ヨハンナ・シュピーㇼ(Johanna Spyri, 1827~1901)の『ハイジ』(Heidi, 1880~81)にも別れの言葉が投影されるとある。

2021.12.11


〔167〕

Friendships last when each friend thinks he has a slight superiority over the other
                                Honoré de Balzac

 《訳》  友情はお互いが相手に少し優越感を覚えると長続きする。
                                オノレ・ド・バルザック

 バルザック(1799~1850)はフランスの小説家。近代リアリズム文学最大の作家で、フランス社会のあらゆる階級・職業とそれ らの人間気質を描いた。

 この友情の秘訣――相手より自分の方が一枚上手とお互いが思っている――には合点がいく。一方が優越感を、他方が劣等感を抱いたら隷属関係が生じ、対等な関係など長続きするはずがない。

2021.11.18


〔168〕
 If Hamlet had been written these days it would probably have been called The Strange Affair at Elsinore.
                                James M. Barrie

 《訳》  もし『ハムレット』が最近書かれたていたとしたら、エルシノアでの奇怪な事件と呼ばれいたであろう。
                                ジェイムズ・M・バリー

 バリーは、都会的な喜劇を得意としていたが、幻想的な作品を好んだ。その反面、当時の写実的な問題劇などには背を向けていた感がある。その影響も多少あるのだろうが、これほどの『ハムレット』劇の酷評はめったに見られるものではない。しかしこれ は誇張したユーモアに他ならない。[1][132]参照)

2021.12.04


〔169〕

 In Genesis it says that it is not good for a man to be alone, but sometimes it is a great relief.
                                John Barrymore

 《訳》  創世記には、男がひとりでいるのは良くないと記されているが、ほっと一息つけることだってあるさ。
                                ジョン・バリモア

 バリモア(1882~1942)はアメリカの俳優で、シェクスピア劇役者として一世を風靡した。とくにハムレットは彼の当たり役として知られた。

 夫とは所詮 a man who thinks that his wife thinks he is boss (自分が主人だと思われていると勘違いしている男)なのだろう。時には妻から、また家庭からも逃げ出して、独身貴族を謳歌してみたくなる心情を実に巧妙に吐露している。([22]参照)

2021.12.05


〔170〕

Acquaintance: A person whom we know well enough to borrow from, but well enough to lend to.
                                Ambrose Bierce

 《訳》  知人:金を借りるくらいの面識はあるが、金を貸すほど知り合っていない人物。
                                アンブローズ・ビアス

 ビアズは親密の度合いを金銭の貸借が出来るかどうかを基準に推し量る。無理は百も承知だが、なるほどとなつ得してしまう。彼の友情の定義もなかなか厳しい。Friendship: A ship big enough to carry two in fair weather, but only one in foul.(友情――天気のときは二人が乗れるくらいの大きさの船)、ところが悪天候では一人しか乗れない舟4)、ビアスにしてみれば、 a friend in need(困ったときの友人)は絵空事なのだろう。([76][164]参照)

2021.12.02


〔171〕

Goship is what no one claims to like――but everybody enjoys.
                               Joseph Conrad

 《訳》  ゴシップは誰も正面きって好きだと言わないけれども、誰もが楽しむものだ。
                               ジョセフ・コンラッド

 コンラッド(1857~1924)はポーランド生まれでイギリスに帰化した小説家。『ナーシサス号の黒人』(Nigger of the Narcissus, 1897)、『ロード・ジム』(Lord Jim 1900)などにより20世紀初頭の最大の小説家の一人とみなされてい る。

 ゴシップの定義をしているが、人間誰もが噂話が大好きなことを面白おかしく述べてもの、ことわざにも People will talk. ( 人の口に戸は立てられず)とあるではないか。

2021.11.17


〔172〕

Isn't it strange that I who have written only unpopular books should be such a popular fellow ?
                                Albert Einstein

 《訳》  人気のない本しか書いてこなかったこの私がこれほどの人気者になるとは実に変ではないか。
                                アルベルㇳ・アインシュタイン

 I awoke one morning and found myself famous.(ある朝目が覚めたら有名になった)は詩人バイロン(Lord Byron, 1788~1824)のセリフだが、これは一般の人には難解な相対性理論を打ち立て、にわかに脚光を浴びたアインシュタインのユーモラスな発言。アインシュタイン自身、相対性理論をこう説明している。 When you are courting a nice girl a hour seems like a second. When you sit on a red-hot cinder a second seems like an hour. That's relativity.(すてきな女の子に言い寄っていると、一時間が一秒のように感じられる。真っ赤な石炭の燃え殻に一秒でも座っていると、一時間のように感じる。それが相対性 だ)([146]参照)


〔173〕

If a little knowledge is dangerous, where is the man who has so much as to be out of dander ?
                                Thomas H. Huxley

 《訳》  少しばかりの知識が危険だと言っても、危険を逃れるほどたくさんの知識を持った人なんているんだろうか。
                                トマス・H・ハックスレー

 これは Alexxander Pope(1688~1744)の『批評論』(Essay on Criticism, 1711)の中に出てくる A little learning is a dangerous thing.(生兵法は大けがのもと)という警句をもじった発言。

 トマス・ハックスレー(1825~95)はオルダス・ハックスレーの祖父にあたる生物学者。ダ―ウインの進化論を支持、継承し、その普及に努めた。彼の発言 All truth, in the long run, is common sense clarified.(全ての真理は結局常識が浮き彫りにされたものだ)には、学問の神髄が圧縮されている。 

2021.12.01


〔174〕

A banker is a fellow who lends you his umbrella when the sun is shining and wants it back the minute it begins to rain.
                                Mark Twain

 《訳》  銀行家は日が照っているときに人に傘を貸す。雨が降り始めたとたんに返してくれと要求する輩(やから)だ。
                                マーク・ㇳウェイン

 高利貸しは『ヴェニスの商人』のシャイロックをはじめ批判の矛先になり、英語にも loan shark 「高利貸し」という言葉があるほどだ。人が困っている肝心なときにはそっぽを向く、銀行家の本質を暴いたマーク・ㇳウェイン流のユーモアだ。これを見ると銀行の「貸し渋り」などは今に始まったことではないらしい。

 そういえばジョンソン博士のパトロンの定義にも共通点が見出せる。Patron; One who contenances, supports or protects. Commonly a wretch who supports with insolence, and is paid with flattery.(奨励し、支持し、もしくは保護する人。横柄な態度で支持を与え、報酬に追従を受けとるロクデナシが普通)(『英語プロムナード』p.121,[39][50][51][66][156][157][176])  

2021.11.22


〔175〕

Turn up the lights; I don't want to go home in the dark.
                                 O. Henry

 《訳》  明かりをつけてくれ、暗い中を帰るのはいやだからな。
                                 オー・ヘンリー

 アメリカ短編作家のオー・ヘンリー(1862~1910)の臨終の言葉とされているジョーク、さすがにユーモアとペーソスを看板にした作家らしい。(『雑草園雑筆』p.117参照)

 ところでオー・ヘンリーの言えば、日曜日ごとに芥川龍之介先生の書斎に集まる人たちを相手に、先生はオー・ヘンリーの短編の話をよくしたのである。「賢者の贈り物」(‘The Gift of the Magi’)、「最後の一葉」(‘The Last Leaf’)、「二十年後」(‘After Twenty Years’)など、最初は先生の口からあらすじを聞かされて、あわてて読んでみた記憶がある。むずかしかった。ところが、先生の口から聞くと実に面白かった。「オー・ヘンリーを全部読んでしまったら人生が索漠としちゃったよ」と言われたことがある。このうち「人生が索漠」というところは、言葉通りに正確に覚えているつもりだ。(『この多彩な英語』P.50参 照)

2008.8.4


〔176〕

Adam was the only man who, when he said a good thing, knew that nobody had said it before him.
                                Mark Twain

 《訳》  アダムだけだったなあ。何か気のきいたことをしゃべったとき、以前にそのセリフを口にした人は誰もいなかったとわかったのは
                                マーク・ㇳウェイン

 自分では気のきいたセリフ(wisecrack)を吐いたつもりでも、たいてい誰か先に言った人がいるものだ。だれもが処女地に最初に足を踏み入れたいと願っても、誰か先駆者がいる。この事実に気付いてマーク・ㇳウェインはその驚きをユーモラスに述べた。

 国文学者・釈 超空[折口信夫]の次の和歌には先人への畏敬の念もこめられているようだ。「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」([39][50][51][66][156][157]) 

2021.11.22


〔177〕

Fashion is a form of ugliness so intolerable that we have to alter it every six months.
                                Oscar Wilde

 《訳》  ファッションは実に醜い堪え難いものだから、六ヵ月毎に更新しないわけにいかない。
                                オスカ・ワイルド

 自分を少しでも美しく見せようとするのが人の世の常。デザイナーをはじめファッション界が流行を追って(追われて?)色、柄、生地などの開発に躍起になっている状況を実にユーモラスに皮肉ったものだ。

 オスカ・ワイルド(1854~1900)は19世紀末の耽美主義文学の代表者であった。  

2021.12.07


〔178〕

Those only deserve a monument who do not need one.
                                 William Hazlitt

 《訳》  記念碑を必要としない人こそ記念碑に値する人物だ。→記念碑に値する人はそんなものを必要としない人だ。
                                 ウイリアム・ハズリット

 ハズリット(1778~1830)はイギリスの随筆家、批評家。『円卓』(The Round Table,1817),『直言集』(The Plain Speaker,1826)その他で歯に衣(きぬ)着せぬ文芸批評に定評があった。

 とかく実力の伴わない者ほど記念碑や胸像やらを所望して箔を付けたがる。

2021.11.18


〔179〕

Of pu()ns it has been said (/) that tho(')se most dislike (/) who are le()ast able to u('●)tter them.
                                 Edgar A. Poe

 《訳》  駄洒落について言われてきていることが、全然言えない言えない人が一番嫌がるものだ。
                                 エドガー・A.ポー

 /)のところでポーズを置き、(●)のついた母音を強く読んでみると、実にリズミカルな文章になっていることに気付くだろう。仮に散文調に、書き換えれば次のようになるが、精気の失せたものになってしまう。It has been said of puns that those are least able to utter them dislike them most.

 ユーモアを解するゆとりのない堅物への強烈な皮肉だが、この発言そのものがそうした堅物にもユーモアのセンスを差し伸べる寛容が感じられる。

 ポー(1809~49)はアメリカの詩人、短編作家。その死因は長いことアルコール中毒症とされていたが、最近の研究では、恐水病(hydrophobia)と判明したそうだ。飼い猫に噛まれたためらしい。この事実は彼の名誉回復につながるだろう。

※参考図書:The Black Cat……(Edgar Allan Poe)

2021.12.06


〔180〕

What is mind ? No matter.
What is matter ? Never mind.
                                 Thomas H. Key

 《訳》  精神とは? 物質にあらず。
      物質とは? 精神にあらず。
                                 トマス・H・キー

 深遠な真理を探究する禅問答の形式を借りた典型的なpun[駄洒落]。No matter. Never mind. にはそれぞれ、[どうでもよい]。[気にするな]の含みがある。

 トマス・キー(1799~1875)はイギリスの古典語学者。

2021.12.07


〔181〕

A professor is one who talks in someone else's sleep.
                                 Wystan H. Auden

 《訳》  大学教授とは他人が睡眠中におしゃべりする人だ。
                                 ウイスタン・H・オーデン

 大学教授の資質にもいろいろあるが、眠っている学生に向って講義するからにはよほどの忍耐力が要求されるだろう。昔から大学教授は absent-minded 「心ここにあらず」という形容詞が冠せられ、聖職者とあわせてやり玉に挙げられることが多い。

 オーデン(1907~73)はイギリスの詩人。第二次世界大戦の直前アメリカにわたって市民権を得た。各地の大学で教え、オックスフォード大学の詩学教授(1956~61)も勤めた。

2021.11.16


〔182〕

Everything comes to him who waits――among other things death.
                                 Francis H. Bradley

 《訳》  待つ身にはなんでもやってくる、とりわけ、死がやってくる。
                                 フランシス・H・ブラドレー

 ことわざ[待てば海路の日和あり]のもじり、期待感に胸ふくらませ thins まで読み続けた読者は厳粛な[死]に遭遇する。どんでん返しの妙が冴え渡る。

 ブラドレー(1846~1924)はイギリスの哲学者。ヘーゲルと同じように精神が物質よりも根源的と主張した。

2021.11.16


〔183〕

People who have no faults are terrible: there is no way of taking advantage of them.
                                 Anatole France

 《訳》  欠点の全くない人なんて箸にも棒にも掛からない、何しろ突け込む隙がないもんだから。
                                 アナトール・フランス

 アナトール・フランスはフランスの小説家、批評家、洗練された詩的な文体で、ユーモアと皮肉をこめた批評論を展開した。欠点のない人はどうも付き合いにくくていけない。人間お互い欠点があるから気楽にやって行けるのに。

2017.03.03.、2017.09.23追加。

2021.12.21.すべてを写し終った

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